得気は本当に必要なのか?「響く鍼ほど効く」を神経生理学から考える

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こんにちは!陣内です。

今回は鍼治療における「得気」について考えていきたいと思います。

鍼を刺した時にズーンと響く感覚や筋肉の奥が重だるくなるような感覚が生じることがあります。鍼灸師であれば日常的に経験するものだと思います。

得気は古くから鍼治療において重要とされてきました。得気が得られるまで鍼を操作するという考え方もありますし響きが強いほど効果が高いという説明を耳にすることもあります。

私自身も臨床で得気を意識することはあります。ただ、響きが強ければ強いほど良い結果になるのかというとそう単純ではないと感じています。

慢性痛の患者さんで普段痛みを感じている領域に似た響きが生じた時や経絡現象のように響きが広がった時に良い反応が得られた経験があります。患者さんがその響きを心地よいと感じている場合にも施術後の反応が良い印象があります。

反対にかなり強い響きが生じても不快感が大きく、期待したほど症状が変化しないこともあります。

この違いは以前から気になっていました。

得気は末梢神経が強く興奮していることを意味するのでしょうか。それとも末梢からの入力を脳がどのように処理したかによって変わる感覚なのでしょうか。

そして最も気になるのが得気は鎮痛効果を得るために必要なのかという問題です。

今回は得気に関する基礎研究と臨床研究を取り上げ、末梢神経の興奮から脊髄、脳での感覚処理、鎮痛効果との関係まで考えていきたいと思います。

今回も基礎研究を踏まえた考察ですが私自身の臨床経験や解釈、仮説も含みます。研究結果をそのまま臨床に当てはめず、ご自身でも調べながら読んでいただければと思います。

目次

得気とは何を指しているのか

得気(Deqi)は鍼刺激に伴って生じる特徴的な感覚です。

伝統的には「酸・麻・脹・重」という表現が使われます。鈍い痛みやだるさ、しびれ、張るような感覚、重だるさなどが含まれます。

ただ実際の患者さんの表現はもっと多様です。「筋肉の奥に響く」「引っ張られる」「電気が走る」「離れたところまで広がる」といった訴えもあります。

また得気という言葉には患者さんが感じる感覚だけでなく施術者が鍼を操作した際の抵抗感を含める場合もあります。

鍼の回旋によって結合組織が鍼体に巻き付き、鍼を操作する際の抵抗が増加するNeedle graspという現象が報告されています。

施術者が感じる抵抗感と患者さんが感じる響きは必ずしも一致するものではありません。今回は患者さんが自覚する得気を中心に考えていきます。

得気は一種類の感覚ではない

Huiら(2007)は合谷(LI4)、太衝(LV3)、足三里(ST36)への鍼刺激と皮膚への触刺激によって生じる感覚を比較しています。

評価には鈍痛、だるさ、圧迫感、重さ、しびれ、膨満感、温感、冷感など複数の感覚項目が用いられました。

研究では得気に関連する感覚の合計スコアが一定以上となった割合が、鍼刺激で71%、触刺激で24%と報告されています。

鍼刺激で多く認められたのはaching、soreness、pressure(痛み、不快感、圧迫感)などです。

興味深いのは同じ得気でも感覚の構成が人によって異なることです。

ある患者さんでは鈍い痛みが主体となり、別の患者さんでは重さやしびれが中心になります。同じ「響いた」という表現でも、実際に感じている感覚は違うわけです。

さらに皮膚への触刺激でも、得気に分類される感覚が生じていました。得気を構成する感覚は鍼刺激で生じやすいものの、そのすべてが鍼に固有というわけではありません。

研究では鋭い刺痛を典型的な得気と区別して扱っています。臨床では重だるい響きに鋭い痛みが混在することもありますが、両者を同じ刺激強度としてまとめてしまうと、何を評価しているのか分かりにくくなります。

得気を数値にすると何が分かるのか

Kongら(2007)は得気を定量化する尺度としてMASS(Massachusetts General Hospital Acupuncture Sensation Scale)を報告しています。

こうした尺度によって、従来は「響いた」「響かなかった」と表現されていた感覚を、種類や強度に分けて研究できるようになりました。

ただ、得気の強さを数値化できたからといってその数値が末梢神経の興奮量を直接表しているわけではありません。

例えば同じ強度5でも、重だるさを心地よく感じている患者さんと、しびれを不快に感じている患者さんでは意味が違います。

得気を考える際には、感覚の種類、強度、響きが広がる範囲、快・不快を分けておく必要がありそうです。

この違いは、後ほど紹介するfMRI研究や臨床研究を理解するうえでも重要になります。

鍼の手技刺激はどのような求心性神経を興奮させるのか

鍼を刺入して回旋すると皮膚や皮下組織、筋膜、筋などに機械的な変形が生じます。

感覚神経終末では機械刺激によって膜電位が変化し閾値に達すると活動電位が発生します。

鍼刺激によって興奮する神経線維は一種類ではありません。

皮膚の感覚神経ではAβ、Aδ、C線維などの分類が用いられます。

Aβ線維には触圧覚などに関係する比較的太い有髄線維が含まれます。Aδ線維は細い有髄線維、C線維は無髄線維です。Aδ線維やC線維には侵害受容に関与する線維が含まれます。

一方で筋求心性神経ではI群からIV群という分類が使われます。

I群には筋紡錘の一次終末や腱器官からの線維が含まれ、II群には筋紡錘の二次終末などからの線維が含まれます。III群は細い有髄線維、IV群は無髄線維です。

III群とIV群には機械刺激や代謝性刺激に応答する線維が存在します。

Aβ・Aδ・Cという分類と筋求心性神経のI〜IV群という分類には伝導速度などの対応関係がありますが受容器の種類や機能まで完全に一致するわけではありません。

Kagitaniら(2005)は神経活動を直接記録した

鍼の手技刺激によってどのような求心性神経が興奮するのかを直接調べた研究としてKagitaniら(2005)の報告があります。

この研究では麻酔下のラットの後肢に鍼刺激を行いL4・L5の脊髄後根から単一求心性神経線維の活動を記録しています。

使用された鍼は直径300〜340μmで足三里付近の皮膚とその下の筋組織に刺入されています。刺激は約1Hzの左右回旋で1分間行われました。

神経線維の分類には伝導速度を用いています。

その結果、I群からIV群までの求心性神経線維が鍼刺激に応答しました。

神経線維平均伝導速度記録数平均発火頻度
I群57.9m/s137.4Hz
II群42.9m/s116.2Hz
III群10.3m/s64.7Hz
IV群1.2m/s50.4Hz

IV群の平均発火頻度は他の群より有意に低い値でした。

この結果から鍼の回旋刺激では細いIII群・IV群だけでなく、比較的太いI群・II群の求心性神経も興奮することが分かります。

ここで一つ注意したいのが、35ユニットという記録数です。

この研究では各線維群を含めるように記録しており記録数がそのまま実際に興奮した神経線維の割合を表しているわけではありません。

I群が13ユニットで最も多かったからといって鍼刺激ではI群が最も多く興奮すると判断することはできません。

またI群の平均発火頻度がIV群より高かったとしてもI群が得気の感覚形成に最も強く関与しているとは限りません。

そもそも実験は麻酔下のラットで行われており得気という主観的な感覚は評価されていません。

この研究で確認されたのは鍼の手技刺激によって複数の求心性神経線維が活動するという事実です。

鍼の回旋刺激を「細い侵害受容線維を興奮させる刺激」とだけ捉えるのでは不十分で太い有髄線維から無髄線維まで幅広い入力が生じている可能性を考える必要があるためです。

神経の発火頻度と得気の強さは比例するのか

感覚神経では刺激強度が増加すると発火頻度が増えたりそれまで興奮していなかった神経線維が動員されたりする場合があります。

しかし得気の主観的な強さは、特定の神経線維の発火頻度だけで決まるものではありません。

末梢からの入力は脊髄後角や視床、大脳皮質などで処理されます。

また鍼の回旋方向や速度、組織の機械的特性によっても求心性入力は変化します。

同じように鍼を回しても患者さんによって響き方が違うのは末梢の刺激条件だけでなく中枢での感覚処理も関係しているのかもしれません。

鍼の響きはなぜ離れた場所まで広がるのか

鍼を刺した場所とは違うところに響きを感じることがあります。

下腿に刺した鍼が足先まで響いたり、臀部への刺激が大腿後面に広がったりすることがあります。患者さんによっては一本の線を描くように響きが移動したと表現することもあります。

伝統的な鍼灸では経絡に沿った感覚の伝播として説明されることがあります。

では、こうした響きの広がりを実験的に調べた研究はあるのでしょうか。

Jungら(2016)は響きの分布を身体図で調べた

Jungら(2016)は鍼刺激によって生じる感覚が身体のどこに広がるのかを調べています。

対象は健常成人25名で刺激部位は左側の神門(HT7)、内関(PC6)、足三里(ST36)、血海(SP10)の4か所です。

鍼刺激では直径0.25mm、長さ40mmの鍼を約10mm刺入し左右交互に約1Hzの頻度で15秒間回旋刺激を加えた後、直ちに抜鍼しています。

比較したのは15gのvon Freyフィラメントによる皮膚刺激です。

研究では得気の種類や強度を評価するだけでなく身体図上に感覚が生じた場所を記録しています。この方法はBodily Sensation Mapping(BSM)と呼ばれます。

結果として鍼刺激では触刺激よりも得気に関連する感覚が強く、刺激部位から離れた場所にも感覚が記録されました。

足三里では下腿遠位方向に響きが広がり胃経の走行に似た分布が報告されています。血海では大腿近位部だけでなく胸部にも感覚が認められました。

さらに興味深いのは、刺激前から両手掌などに感覚が記録されていたことです。

研究者らは刺激前の身体感覚を差し引いた解析も行っています。その結果、特に足三里と血海では刺激部位から離れた感覚分布が残っていました。

鍼刺激によって局所だけでなく遠隔部位に感覚が生じる場合があることを身体図を用いて示した研究といえます。

この研究は感覚が時間とともに経絡上を移動したことを連続的に記録したわけではありません。経絡に似た感覚分布が観察されたことと、経絡に沿った独立した神経伝導路が存在することは別の問題です。

それでも患者さんが「ここまで響いた」と表現する感覚を身体図として可視化した点は臨床的にも面白いと思います。

響きの広がりと関連痛は同じ現象なのか

ここで気になるのが関連痛(Referred pain)との関係です。

関連痛は侵害受容入力が生じている場所とは異なる部位に痛みを感じる現象です。

その機序を説明する考え方の一つに収束投射説があります。

脊髄後角には皮膚や筋など異なる末梢組織からの入力を受け取るニューロンが存在します。

異なる組織からの情報が同じニューロンに収束すると中枢神経系が刺激の発生源を正確に区別できず、実際の刺激部位とは異なる場所に感覚を定位することがあります。

鍼刺激による響きの広がりにもこうした感覚情報の収束や中枢での身体位置の認識が関係している可能性はあります。

関連痛は基本的に痛みの知覚に関する概念です。得気には重さやしびれ、膨満感なども含まれるため、両者を同じ現象として扱うことはできません。

また患者さんが「足先まで響いた」と感じたとしても末梢神経の活動が足先に向かって伝導したことを意味するわけではありません。

感覚がどこに生じたと知覚されるかと神経活動がどの方向に伝わるかは異なる問題です。

WDRニューロンは関係しているのか

脊髄後角には広作動域ニューロン(Wide Dynamic Range neuron:WDRニューロン)が存在します。

WDRニューロンは比較的弱い機械刺激から侵害刺激まで広い強度範囲の入力に応答するニューロンです。

脊髄後角の第V層などに存在しAβ線維からの低閾値入力に加えてAδ線維やC線維からの侵害受容入力を受けるものがあります。

刺激強度が増加すると発火頻度が増える性質があり侵害受容情報の強度の処理に関与します。また複数の末梢領域からの入力が収束することもあります。

鍼刺激によって複数の求心性神経が興奮することを考えるとこうした脊髄後角での情報統合は興味深い部分です。

WDRニューロンが得気の響きの広がりを直接発生させていると示されたわけではありませんが異なる末梢入力が中枢で統合される仕組みの一例として考えておきたいと思います。

慢性痛では響き方が変わるのか

慢性痛の患者さんでは軽い刺激でも強い痛みを感じたり痛みが広い領域に及んだりすることがあります。

その背景の一つとして中枢性感作(Central sensitization)が知られています。

LatremoliereとWoolf(2009)は中枢性感作について侵害受容系の神経回路の興奮性増大やシナプス伝達の変化、抑制機能の低下などを整理しています。

NMDA受容体を介した興奮性シナプス伝達の増強や機能的受容野の拡大などが研究されています。

機能的受容野とはそのニューロンの活動に影響を与える末梢刺激領域のことです。

例えば通常は限られた領域からの刺激に応答していたニューロンが感作後には周辺領域からの入力にも応答するようになる場合があります。

これは末梢神経の解剖学的な走行が変化したという意味ではありません。

こうした研究は慢性痛患者の感覚処理を考えるうえで参考になります。

中枢性感作の研究で確認されている受容野の拡大は主に侵害受容情報や疼痛過敏に関するものです。得気の響きが広がる現象と同一視することはできません。

私自身は慢性痛患者で響きが普段の疼痛領域に重なることに興味がありますがその理由を中枢性感作だけで説明するつもりはありません。

得気の種類によって脳活動は変わるのか

末梢神経の活動や脊髄での情報処理だけでは、患者さんが経験する「重い」「響く」「心地よい」といった感覚を十分に説明できません。

そこで次に見ていきたいのが得気と脳活動の関係です。
この分野に関しては私は門外漢なので悪しからず。

Huiら(2005)は得気と鋭い刺痛を比較した

Huiら(2005)は健常成人15名を対象に、足三里(ST36)への鍼刺激に伴う脳活動をfMRIで調べています。

対象は鍼治療の経験がない右利きの健常者で男性8名、女性7名、年齢は22〜47歳でした。

鍼刺激では足三里に鍼を刺入し回旋による刺激を加えています。その際の脳活動をBOLD(Blood Oxygen Level Dependent)信号によって評価しました。

BOLD信号は神経活動に伴う局所の血流や血液酸素化の変化を利用した指標です。神経細胞の活動電位を直接記録しているわけではありません。

15名のうち11名は得気を主体とする感覚を経験し4名では得気に鋭い痛みが混在していました。

得気が主体となる条件では辺縁系や傍辺縁系を含む複数の領域でBOLD信号の低下が観察されました。

一方で鋭い痛みが混在した場合には信号増加が優勢となる異なる活動パターンが報告されています。

触刺激による比較条件でも複数の領域で信号増加が観察されました。

ここで興味深いのは同じ鍼刺激でも患者さんがどのような感覚を経験したかによって脳活動のパターンが異なっていたことです。

臨床では「強く響いた」という表現だけではその中身が重だるい得気なのか鋭い刺痛なのか分からない場合があります。

Huiらの研究はその違いを脳活動の側面から考える材料になります。

ただし得気のみの群は11名、鋭い痛みが混在した群は4名です。少人数の比較であり、個人差などの影響も考慮する必要があります。

またBOLD信号が低下したことをその領域の神経活動が単純に抑制されたと解釈することはできません。

この研究で示されたのは得気に伴う脳活動の特徴であって得気による鎮痛効果ではありません。

Wangら(2013)は得気を5種類の感覚に分けた

Huiらの研究では得気と鋭い痛みの違いが注目されていました。これは個人的に面白いなって思いました。

では、得気の内部にある感覚の違いはどうなのでしょうか。

Wangら(2013)は右側の太衝(LV3)への鍼刺激中にfMRIを撮影し得気の種類ごとに脳活動との関係を解析しています。

注目したのは圧迫感(pressure)、重さ(heaviness)、膨満感(fullness)、しびれ(numbness)、チクチクする感覚(tingling)の5種類です。

比較条件にはvon Freyフィラメントによる皮膚への触刺激が用いられています。

Von Frey試験法とはMaximilian von Freyが考案した痛覚測定法でげっ歯類にフィラメントを押し当てて、痛覚の検知を評価する試験です。

研究全体の参加者は健常成人37名で一部の参加者は複数回の測定を受けています。解析には鍼刺激36件、触刺激23件のfMRIデータが用いられました。

鍼刺激では直径0.20mmの鍼を右太衝(LV3)に刺入し約1Hzで左右に約180°ずつ回旋させています。

刺激は2分間ずつ2回行われ撮影後に各感覚の強度を0〜10で評価しました。

研究者らは得気全体の合計スコアではなく各感覚の強度とBOLD信号の変化との関係を解析しました。

得気という一つの感覚を比較するのではなくその中身を分けて脳活動との関係を調べている点が特徴です。

圧迫感と重さでは脳活動との関連が異なった

Wangらの研究では圧迫感の強度が辺縁系・傍辺縁系・新皮質を含むネットワーク(Limbic-Paralimbic-Neocortical Network:LPNN)の広範囲なBOLD信号低下と関連していました。

一方で重さは前帯状皮質(ACC)や眼窩前頭皮質周辺などでBOLD信号の増加と関連する領域がありました。

膨満感やしびれ、チクチクする感覚についても、それぞれ異なる脳活動との関連が報告されています。

特に興味深いのは圧迫感、重さ、膨満感で一部の脳領域が重なっているにもかかわらずBOLD信号との関連の方向が異なる場合があったことです。

例えば患者さんが「重い」と感じている場合と「圧迫される」と感じている場合では、主観的には似た得気に分類されるかもしれません。しかし脳活動との統計的な関連は必ずしも同じではありませんでした。

もっとも、感覚ごとの報告数には偏りがあります。鍼刺激36件のうち重さを報告したのは7件、膨満感は5件でした。

実際の鍼刺激では複数の感覚が同時に生じることもあり、感覚別の相関から独立した神経回路を特定することはできません。

それでも得気の構成要素によって脳活動との関連が異なる可能性が示されたことは重要だと思います。

同じ得気スコアでも、どのような感覚が主体なのかによって中枢での処理が異なるかもしれない。

私自身はこの点に興味があります。

得気の強さと心地よさは別の問題

ここで私自身の臨床経験に戻ります。

同じように重だるい響きがあっても、患者さんによって心地よいと感じる場合と不快に感じる場合があります。

痛みの研究では感覚識別的側面と情動的側面を分けて考えることがあります。

感覚識別的側面は刺激の位置や強さ、性質などに関係します。情動的側面はその刺激をどれほど不快に感じるか、避けたいと感じるかといった評価に関係します。

島皮質やACCなどは身体内部の状態や侵害受容情報、注意、情動など複数の機能に関与しています。

そのため得気の種類だけでなく、患者さんがその感覚をどのように受け止めたかも考える必要があると思います。

HuiらやWangらの研究は、心地よい得気と鎮痛効果の関係を直接検証したものではありません。

私自身の臨床経験を考えるうえで参考になる研究ですが仮説を証明するものではないという位置づけです。

得気を感じることと鎮痛が生じることは同じなのか

鍼刺激による鎮痛には脊髄後角での疼痛調節や下行性疼痛調節、内因性オピオイドなど複数の機序が関係すると考えられています。

脊髄後角ではGABAやグリシンを使用する抑制性介在ニューロンなどによって侵害受容情報が調節されます。

また中脳水道周囲灰白質(PAG)や吻側延髄腹内側部(RVM)などを含む下行性疼痛調節系も、脊髄後角の侵害受容情報の処理に影響します。

RVMには疼痛反応に関連して活動が変化するON細胞やOFF細胞などが知られています。下行性疼痛調節には抑制だけでなく促通もあります。

さらに鍼鎮痛では内因性オピオイドの関与が研究されています。

特に鍼通電では刺激周波数によって関与するオピオイドペプチドや受容体が異なる可能性が報告されています。

ただ、鍼通電による研究結果をそのまま鍼の手技刺激で生じる得気に当てはめることはできません。

鍼通電では周波数、パルス幅、刺激強度などによって求心性神経の動員条件が変わります。一方で鍼の手技刺激では回旋や雀啄による組織の機械的変形が入力の中心となります。

刺激方法が異なるため、得気の強さと内因性オピオイドの放出量が比例すると考える根拠にはなりません。

またGoldmanら(2010)はマウスを用いて鍼刺激による局所のアデノシンA1受容体を介した抗侵害受容作用を報告しています。

この研究では鍼刺激に伴う局所のアデノシン増加とA1受容体を介した抗侵害受容作用が検討されています。

興味深い研究ですが、得気という主観的な感覚を評価したものではありません。

鍼刺激によって鎮痛に関係する生理学的反応が生じることと患者さんが得気を感じることは同じ現象ではないわけです。

得気が鎮痛に必要なのかを考えるには実際の患者さんを対象に得気と疼痛改善の関係を調べた研究を見る必要があります。

得気が強いほど鎮痛効果は高くなるのか

得気と治療効果の関係を調べた臨床研究では、一貫した結果が得られていません。

ここでは得気の強さと鎮痛効果を調べたWhiteら(2010)とHuら(2019)の研究を紹介します。

Whiteら(2010)は得気の強さと疼痛改善に相関を認めなかった

Whiteら(2010)は股関節または膝関節の変形性関節症患者を対象に得気の強さと疼痛改善の関係を調べています。

この研究はより大きなランダム化比較試験のデータを用いた二次解析です。

実際に鍼を刺す群と皮膚を貫通しないStreitberger鍼を使用する群のデータが分析されました。

施術は週2回、4週間行われています。

対象は147名で140名が研究を完了しました。

疼痛はVAS、鍼刺激による感覚はPark needling sensation questionnaireで評価されています。

平均疼痛改善量は15.2mm、平均感覚スコアは6.2でした。

この質問票では複数の感覚を評価しており原著では総感覚スコアと得気関連感覚を区別して解析しています。

総感覚スコアと疼痛改善量の間には有意な相関が認められませんでした。

実際の鍼刺激群と非貫通鍼群を合わせた解析ではSpearmanの相関係数はr=0.060(p=0.49)でした。

さらに実際の鍼刺激群のみではr=0.104(p=0.39)非貫通鍼群のみではr=0.020(p=0.87)といずれも有意な相関は認められませんでした。

また得気を感じた患者さんと感じなかった患者さんの疼痛改善量にも有意差は認められませんでした(p=0.52)。

この結果は「得気が強いほど鎮痛効果が高い」という考え方を支持していません。

対象は変形性関節症患者であり4週間の施術後の疼痛改善を評価しています。得気の種類や快・不快、普段の疼痛領域と響きが一致したかどうかを詳細に検討した研究ではありません。

ただ、得気を強く出すこと自体を治療目標にする根拠として少なくともこの研究は支持していないわけです。

Huら(2019)は異なる刺激条件で得気を評価した

次に原発性月経困難症を対象としたHuら(2019)の研究を見ていきます。

この研究も先行するランダム化比較試験のデータを用いた二次解析です。

刺激部位は三陰交(SP6)で30分間の施術を行っています。

もともとの研究では得気を生じさせることを狙った群と得気を抑えることを狙った群が設定されていました。

前者は比較的太い鍼を深く刺入し鍼の操作を加える条件です。後者は細い鍼を浅く刺入し、鍼の操作を加えない条件でした。

当初の割付人数は前者が17名、後者が51名です。

ここで重要なのは群の名前と実際の得気の有無が一致していなかったことです。

浅い刺鍼で鍼の操作を加えない条件でも、得気を感じた患者さんがいました。

研究者らは実際に得気を感じた39名を対象に二次解析を行っています。

その内訳は、深い刺鍼と鍼の操作を加えた群の14名、浅い刺鍼で鍼の操作を加えなかった群の25名です。

つまり、この二次解析は得気がある患者さんとない患者さんを比較したものではありません。

異なる刺鍼条件のもとで得気を感じた患者さんについて、得気の強度や種類と疼痛改善の関係を調べた研究です。

得気の評価にはAcupuncture Deqi Clinical Assessment Scale(ADCAS)が使用されています。

疼痛は施術前、抜鍼時、抜鍼10分後、20分後、30分後にVASで評価されました。

得気の強さと疼痛改善の相関が異なった

得気の平均強度は深い刺鍼と鍼の操作を加えた群で5.07、浅い刺鍼で鍼の操作を加えなかった群で3.08でした。

深い刺鍼と鍼の操作を加えた14名では、得気の強度と抜鍼直後の疼痛改善量の間に負の相関が認められました。

相関係数はr=-0.554、p=0.040です。

一方で浅い刺鍼で鍼の操作を加えなかった25名では、得気の強度と抜鍼20分後の疼痛改善量の間に正の相関が認められました。

こちらはr=0.422、p=0.036でした。

一見すると得気が強い条件では強く響かない方が良く弱い条件ではある程度響いた方が良いという結果にも見えます。

しかし二つの相関が認められたのは異なる評価時点です。

深い刺鍼の群では抜鍼直後、浅い刺鍼の群では抜鍼20分後に有意な相関が認められています。同じ時点で相関の方向が逆転したことを示したわけではありません。

さらに両群を合わせた39名の解析では得気強度と疼痛改善量に有意な相関は認められませんでした。

また複数の感覚項目と複数の評価時点について相関を調べているため偶然に有意な結果が生じた可能性も考える必要があります。

深い刺鍼の群は14名、浅い刺鍼の群は25名と少人数です。得気の強度も無作為に割り付けられたわけではありません。

この研究から「得気は5以上にしない方がよい」「浅い刺鍼では得気を強くした方がよい」といった具体的な刺激設定を導くことはできません。

それでも得気の強さと疼痛改善の関係が、単純な比例関係ではないことを考えるうえで興味深い結果だと思います。

響きが遠くまで広がるほど鎮痛効果は高いのか

Huらは得気の強度だけでなく感覚の種類や響きが広がった距離も評価しています。

深い刺鍼と鍼の操作を加えた群では浅い刺鍼の群よりも響きが広がった距離が長くなっていました。

しかし響きが広がった距離と疼痛改善量の間にはいずれの群でも有意な相関が認められませんでした。

この結果は、響きが遠くまで広がれば鎮痛効果が高いという考え方を支持していません。

私自身の臨床では普段の疼痛領域と似た場所に響きが広がった時に良い反応が得られた経験があります。

ただ、響きが広がった距離と普段の疼痛領域との一致は別の指標です。

例えば響きが広範囲に広がっても疼痛領域と重ならない場合があります。反対に響きがそれほど遠くまで広がらなくても、普段の疼痛領域と一致する場合があります。

Huらの研究では響きが広がった距離と疼痛改善の関係を調べていますが普段の疼痛領域との空間的な重なりを直接評価したわけではありません。

私自身の臨床的な仮説については、今後別の方法で検討する必要があると思います。

二つの研究から何を考えるか

Whiteらの研究では得気の強さと疼痛改善に有意な相関が認められませんでした。

一方でHuらの研究では、一部の刺激条件と評価時点で正または負の相関が認められています。

この違いを考えるうえで重要なのは、研究条件が大きく異なることです。

Whiteらは変形性関節症患者を対象に、4週間の施術後の疼痛改善を評価しています。

Huらは原発性月経困難症患者を対象に、1回の施術後30分までの疼痛変化を調べています。

疾患も施術期間も異なります。得気の評価尺度もWhiteらではPark needling sensation questionnaire、HuらではADCASが使用されています。

さらにWhiteらは得気の有無と強度を比較していますが、Huらの二次解析は実際に得気を感じた患者さんだけを対象にしています。

そのため両研究の相関係数を並べて、どちらが正しいかを判断することはできません。

得気と鎮痛の関係を考える際には、疾患、刺激条件、評価尺度、評価時点を分けて検討する必要があることが分かります。

得気と治療効果の関連を認めた研究もある

ここまで紹介した研究だけを見ると、得気と鎮痛効果にはほとんど関連がないように感じるかもしれません。

しかし得気と治療効果の関係を調べた研究の結果は一様ではありません。

Parkら(2013)の文献レビューでは得気と臨床効果の関連を認めた研究と、明確な関連を認めなかった研究の両方が整理されています。

また研究によって得気の定義や評価方法、対象疾患、刺激条件が異なっていました。

得気の有無だけを比較した研究と感覚の強度や種類を評価した研究を同じ基準で比較することは難しく現時点で得気の役割について一つの結論を出すことはできません。

このレビューも得気が鎮痛に必要であることを証明したものではありませんが得気と治療効果の関係を一律に否定するのも適切ではないと思います。

得気は本当に必要なのか

ここまでの研究を踏まえると、「得気は必要なのか」という問いそのものを整理する必要があると思います。

得気が必要だという言葉には少なくとも三つの意味が含まれています。

一つ目は、得気がなければ鎮痛効果が生じないという必要条件としての得気です。

二つ目は、得気が強いほど十分な刺激が加わっていると考える刺激量の指標としての得気です。

三つ目は、得気の種類や強さから施術後の反応を予測する治療反応の指標としての得気です。

これらは同じ問題ではありません。

Kagitaniらの研究では鍼の手技刺激によって複数の求心性神経線維が興奮することが確認されています。しかし患者さんが得気を感じたかどうかまでは分かりません。

HuiらやWangらの研究では得気の種類によって脳活動との関連が異なる可能性が示されていますがそれが鎮痛効果の違いにつながるかは検証されていません。

そして臨床研究でも得気の強さと疼痛改善の関係は一貫していません。

現時点で、得気が鎮痛の普遍的な必要条件であると判断することは難しいと思います。

一方で得気の種類や響きの分布、快・不快が患者さんの状態や治療反応について何らかの情報を持っている可能性はあります。

私自身はこの部分に最も興味があります。

得気を臨床でどう考えるか

ここからは私自身の臨床経験を踏まえた考察になります。

私が気になっているのは、得気の強さそのものよりも患者さんがどのような感覚として受け止めているのかという点です。

普段の疼痛領域と響きが一致する場合

慢性痛の患者さんで普段痛みを感じている領域に似た響きが生じることがあります。

そのような時に施術後の疼痛が軽減した経験があります。

一つの可能性として疼痛部位と鍼刺激部位からの求心性入力が共通する脊髄分節や神経回路に入力していることが考えられます。

また疼痛領域に響きが広がりやすいこと自体が患者さんの感覚処理の特徴を反映している可能性もあります。

この二つは区別して考える必要があります。

ただ、臨床では響きが広がった距離だけでなくどの領域に響いたのかという情報も記録する価値があると思っています。

心地よい得気と不快な得気

私自身は患者さんが得気を心地よいと感じている時に良い反応が得られる印象があります。

一方で強い不快感を伴う響きでは必ずしも良い結果につながりません。

この違いには感覚の情動的な評価が関係している可能性があります。

ただし心地よい得気が特定の鎮痛回路を活動させると証明されたわけではありません。

また不快な刺激でも条件性疼痛調節(CPM)のような鎮痛反応が生じる場合があります。

そのため不快な得気は無効であると考えることもできません。

それでも臨床では強い不快感を訴えている患者さんに対して得気をさらに強く出す必要があるのか慎重に考えたいと思います。

患者さんの感覚感受性

同じような鍼刺激でも患者さんによって響き方が大きく異なります。

その背景には末梢組織の状態だけでなく感覚に対する注意や予測、過去の経験、中枢神経系での情報処理などが関係している可能性があります。

慢性痛患者の一部では中枢性感作などによって感覚入力への反応性が変化している場合もあります。

得気が強いことや不快であることだけで、中枢性感作を判断することはできませんが、得気は患者さんの感覚処理を考える手がかりになるかもしれません。

まとめ

得気について調べていくと普段臨床で何気なく使っている「響き」という言葉の中にさまざまな感覚や神経生理学的な現象が含まれていることが分かります。

鍼の回旋刺激によって複数の求心性神経が興奮しその情報が脊髄や脳で処理されることで患者さんは重さや圧迫感、しびれ、響きの広がりなどを経験します。

しかし得気の強さがそのまま神経活動の大きさや鎮痛効果を反映しているわけではありません。

臨床研究でも得気の強さと疼痛改善の関係は一貫しておらず得気が強いほど効果が高いという考え方を支持することは難しいと思います。

一方で得気が治療においてまったく意味を持たないと結論づけることもできません。

私自身は得気の強さだけでなく、感覚の種類、響きの広がり、快・不快、患者さんの感受性などを分けて考える必要があると思っています。

特に普段の疼痛領域と得気の分布が一致することや心地よい得気が得られることにどのような意味があるのかは今後も考えていきたい部分です。

得気は鎮痛の原因なのでしょうか。それとも鍼刺激によって生じた神経活動や、患者さんの感覚処理の状態を反映する現象なのでしょうか。

少なくとも得気を強く出すこと自体を治療目標にするよりも、患者さんがどのような感覚を経験し、その後にどのような変化が生じたのかを評価する方が臨床的には重要ではないでしょうか。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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