マイクロカレント、電気神経筋刺激が、骨格筋損傷の再生を促す可能性があるという論文

こんにちは!

陣内です。

今回も論文をご紹介していきたいと思います。

いつもながら私は研究者でも教育者でもないので生温かく見守っていただければ幸いです。

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今回は、マウスを用いた研究「microcurrent electrical neuromuscular stimulation(MENS:マイクロカレント電気神経筋刺激)が、骨格筋損傷の再生を促す可能性がある」という論文(Microcurrent electrical neuromuscular stimulation facilitates regeneration of injured skeletal muscle in mice、2015年)をご紹介し解説します。

難しい専門用語も出てきますが、「どう治療可能性につなげるか」という観点から整理していますので、ぜひ最後までお読みください。


目次

1. 背景:なぜこの研究が重要なのか

骨格筋の損傷(例:スポーツでの肉離れ、外傷、過剰負荷など)は、セラピストの現場でも非常に頻繁に扱うテーマです。筋肉が損傷を受けると、筋繊維の壊死・炎症・再生というプロセスを経て機能回復を目指しますが、程度が大きいと回復に時間がかかったり「再生はしたけど機能がもとに戻らない」というケースもあります。論文でも、

「骨格筋損傷では通常、主に安静療法(休ませること)で保守的に治療されるが、回復に数ヶ月以上かかることもある」 (JSSM)

という記述があり、セラピストとしては「どう早期回復を促せるか」「どんな刺激を与えたら再生プロセスを支えられるか」という視点が重要です。

そこで、この研究チームは「MENS」という微弱な電気刺激を損傷筋に与えたら、再生が促進されるか?という問いを立てています。

MENSは、微少な電流(マイクロアンペア領域)を使い、筋収縮を引き起こさずに組織修復や痛み軽減に寄与するとされる物理療法とされています。 (J-STAGE)

セラピストとしては「休ませる」だけでなく、「適切な刺激(微弱電流)をどのタイミングで・どの強さで入れるか」がパフォーマンス回復や治療効率に影響し得る、という一つの方法のヒントになります。


2. 研究の目的と実験の概要

この研究の目的は大きく2つです。

  1. MENSが損傷した骨格筋(マウス)において、再生プロセスをどの程度促すか。
  2. そのメカニズムとして、いわゆる「筋衛星細胞(satellite cells)」という再生に関わる細胞が活性化されるかどうかを調べること。 (PubMed)

実験概要

  • 対象:7週齢の雄マウス(C57BL/6J、計30匹) (JSSM)
  • 損傷モデル:左腿の前側「脛骨前筋(tibialis anterior, TA)筋」に、心毒素(cardiotoxin, CTX)を注入し、筋繊維の壊死‐再生サイクルを起動。 (JSSM)
  • グループ分け:
    • CX群:CTX注入のみ(n=15)
    • MX群:CTX注入+MENS処置(n=15) (PubMed)
  • MENS処置:注入48時間後より、60分/日、週3回、3週間。パラメータは10 µA(マイクロアンペア)、0.3 Hz、250 msパルス幅。筋収縮誘発なし。 (JSSM)
  • 測定項目:
    • 筋の乾燥重量・タンパク質含有量(体重あたりで相対値)
    • 筋繊維断面積(cross-sectional area, CSA)
    • 中央核を持つ筋線維の割合(再生中の指標)
    • 筋衛星細胞(Pax7陽性)の数 (JSSM)

このようにしてこの論文は「MENSが再生を促すか/衛星細胞に働きかけるか」を明らかにしようとしています。


3. 主な結果:MENSの効果は?

以下、セラピスト視点で押さえておきたいポイントとしてまとめます。

● 筋重量・タンパク質含有量の回復促進

MX群(MENSあり)は、CTXによる損傷後、乾燥筋重量・筋タンパク質含有量(体重あたり)が、CX群(MENSなし)よりも回復が早かったという結果が出ています。 (PubMed)
これは「筋が壊れて、修復・再生している途中だけど、MENSを入れることで“筋量・タンパク質の再構築”が促された」可能性を示しています。

● 筋繊維断面積(CSA)が大きくなった

再生期の筋線維の平均断面積も、MENS群で有意に大きくなっています。つまり「一本一本の筋繊維が再生後も大きさを取り戻しやすかった」ということです。 (JSSM)
セラピー現場でイメージすると、「損傷後、筋線維が細く再生期に縮小したまま残る」リスクが、刺激を入れることで軽減される可能性がある、ということになります。

● 中央核を持つ筋線維の割合が低下しやすい

筋繊維が損傷・再生を行うと「中央核(normalな筋繊維では核は周辺部にある)が線維中央に位置する」特徴を持つ再生中の線維が増えます。再生が進むほど、この割合は低下します。研究では、MENS群でこの「再生中の特徴を持つ線維」の割合がより速く減少しました。 (JSSM)
これは「再生が少しスムーズに進んだ」ことの指標として捉えられます。

● 衛星細胞(Pax7陽性細胞)の数が増加

そして最も興味深いのが、MENS処置により、損傷筋において筋衛星細胞の数が有意に増えたというデータです。(PubMed) 筋衛星細胞は「筋の再生を担うまさにキーセルフ」であり、これが増えるということは“再生ポテンシャル(再び筋をつくる力)”が高まった可能性を示唆します。


4. セラピストとして押さえておきたい観点・留意点

この研究をセラピー現場に活かすうえで、以下のような観点・制限を理解しておくと、そのまま治療方針やクライアントとのコミュニケーションに活かしやすくなります。

● 実験はマウスモデル、かつ筋損傷モデル

この研究はマウスを用いた実験で、しかも筋毒素(cardiotoxin)による明確な壊死・再生サイクルモデルです。つまり「人間のスポーツ傷害・肉離れ・挫傷」とは完全に同じではありません。セラピー現場では「この刺激が確実に人間にも同様に作用する」とは言えない点を留意してください。

● MENSの刺激条件が慎重に設定されている

この研究では0.3 Hz、10 µA、250 msパルス幅という非常に弱い電流で、しかも筋収縮を伴わないレベルで実施されています。 (JSSM) これは、一般的な電気刺激(例えば筋収縮を目的とするEMS/NMES)とは異なる刺激条件です。セラピー機器を用いる場合、同等の出力条件かどうかを確認する必要があります。

● 臨床応用にはさらなる研究が必要

論文の結びにも

「MENSは損傷した骨格筋の再生を促す可能性が高く、治療法として有用であるかもしれない。ただし臨床応用にあたっては条件(刺激強度・頻度・タイミング)を明らかにするためにさらなる研究が必要である」 (JSSM)

と記されています。セラピストとして即「こうすれば完治する」という過度な期待を持つのではなく、「可能性がある物理刺激として理解し、他の治療アプローチと統合する」姿勢が大切です。

● 治療タイミング・他アプローチとの併用を検討

この研究では傷害注入48 時間後からMENSを開始しています。現場では「いつ刺激を開始するか」「安静期からどのタイミングで介入を始めるか」がキーになります。また、機械的刺激(運動・筋収縮)、栄養、休息、他の物理療法(アイシング、超音波、レーザー等)との併用を視野に入れる必要があります。例えば、アイシングとの併用を別研究で検討して「アイシング+MENSでは再生促進効果が明らかでなかった」という報告もあります。(J-STAGE)


5. セラピー現場での示唆と活用アイディア

セラピストとして、この知見をどう活かせるか、いくつかのアイディアを紹介します。

アイディア①:損傷直後の“早期刺激”としてMENSを検討

損傷後すぐは「まず安静・アイシング・軽めの動き」といった守りのアプローチが主流ですが、「少し安静期を置いたらMENSを用いて再生支援を図る」という選択肢を持つことができます。特に、回復が遅いと感じられるケース(長期化傾向あり、筋量減少大きめ、筋交換が必要なケース)では、有効な追加手段になり得ます。

アイディア②:筋衛星細胞活性化を意識したプログラム設計

再生を担う筋衛星細胞の活性化というメカニズムを念頭に置くと、「刺激まわり・栄養まわり・休息まわり」をセットで考えやすくなります。例えば、MENSを入れた日は「タンパク質合成を支える栄養」「睡眠・休息の質を確保」などを併せてクライアントに提案することで、治療効果を高める土台ができます。

アイディア③:機器設定・治療プロトコルを明確に

使用するMENS機器の出力(マイクロアンペア領域)、頻度(週何回)、1回あたりの時間(この研究では60分)、開始タイミング(損傷48時間後から)などを整理しておくことが大切です。実機の仕様が論文と大きく異なる場合は、「効果が出るかどうかは不明」という旨をクライアントに説明しておく誠実さも必要です。

アイディア④:他の物理療法との組み合わせを戦略的に

例えば、アイシング・圧迫・超音波・LED/レーザーなどの物理療法と比較・併用を検討して、「MENSをいつ・どのタイミングで入れるか」を計画すると、治療プログラム全体に一貫性が出ます。論文にあったように、「アイシング+MENS」で必ずしも“さらに良い”結果が出たわけではありませんので、併用のルールを検討することがポイントです。(J-STAGE)


6. 最後に:セラピストとしての心得

・この研究は“可能性”を示すものです。即断・過信せず、クライアントにも「こういう研究もあります」という説明を添えて活用してください。
・クライアントの「どのくらい損傷しているか」「どれだけ回復を急ぎたいか」「他に併用療法があるか」を見ながら、MENSという選択肢を加えるかを検討しましょう。
・筋損傷の再生は「刺激・休息・栄養・運動」が鎖となって働きます。MENSはその一環と捉え、他の要素とのバランスを保つことが大切です。
・機器仕様・プロトコル(強さ・頻度・時間)を明確にし、記録を取ることで「どれだけ回復に影響したか」を臨床的に評価できるようにしましょう。


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