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こんにちは!
陣内です。
今回も論文をご紹介していきたいと思います。
いつもながら私は研究者でも教育者でもないので生温かく見守っていただければ幸いです。
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変形性膝関節症(KOA:knee osteoarthritis)に関する論文「Effect of acupuncture combined with moxibustion on serum matrix metalloproteinase‑9 and matrix metalloproteinase inhibitor‑1 in patients with knee osteoarthritis」(Lü N. 他、2022)をご紹介していきたいと思います。
原文のリンクはこちら

はじめに

膝の変形性関節症は、「膝が痛い」「膝が曲がりにくい」「階段でつまずきやすい」など、日常生活に大きな影響を及ぼす疾患です。多くの鍼灸院でも相談を受ける機会が多いですね。
治療として鍼(針)を使うケースは馴染み深いですが、「鍼+灸」の併用がどう働くか、そしてその作用メカニズムがどこまで明らかになっているか、気になるところです。今回ご紹介する研究では、鍼に灸をプラスすることで、膝変形性関節症の患者さんの“体内での代謝(特にマトリックス分解・抑制)”という視点から改善が確認されたという報告です。鍼灸師として「どういう意味があるのか」「臨床でどう活かせるか」を一緒に見ていきましょう。
論文のキモを整理(目的・対象・方法・結果)

目的
この研究は、変形性膝関節症の患者さんに対して、鍼治療に灸(もぐさ等による温熱刺激)を併用した場合、血液中の特定マーカー(Matrix Metalloproteinase‑9=MMP-9 と Tissue Inhibitor of Metalloproteinase‑1=TIMP-1)に変化が生じるかを観察し、「なぜ良くなるか」のひとつのメカニズムを探ることを目的としています。 (PubMed)
対象・方法
- 中国・四川省の伝統中医病院で、変形性膝関節症の患者さん96名を対象にしています。
- 患者さんを「対照群(鍼のみ)」「観察群(鍼+灸併用)」にランダムに分け、各48名ずつ。
- 対照群:患側の足三里(ST36)、内膝眼(EX-LE4)、鶴頂(HE–ding/EX-LE2)や懸鐘(GB39)などの穴に、30分/1日1回。
- 観察群:上記鍼治療に加え、膝部に灸箱を使った灸を 30分/1日1回併用。
- 両群ともに1日1回、週6回、4週間の治療。
- 評価方法としては:
- 臨床指標:WOMACスコア(痛み・関節機能・可動域などを含む)
- 超音波所見:滑膜の厚さ、関節腔液(積液)厚さを測定。
- 血清マーカー:Ⅰ型コラーゲンC末端クリアペプチド(CTX-Ⅰ)、インスリン様成長因子(IGF)、骨ガラ蛋白(BGP/osteocalcin)、MMP-9、TIMP-1、MMP-9/TIMP-1比。
結果
- 両群ともに、治療後にはWOMACスコアが改善、滑膜厚・積液厚も低下、血清マーカー(CTX-Ⅰ、MMP-9、TIMP-1、MMP-9/TIMP-1比)が低下、またIGF・BGPが上昇という変化が見られました。
- さらに、鍼+灸併用群(観察群)の方が、鍼のみ群(対照群)よりも有意に改善が大きかったということが報告されています。例えば、臨床有効率(“総有効率”)は、併用群が95.83%、鍼のみ群が81.25%。
- 研究者らの結論としては、「鍼+灸併用は、骨代謝および関節内環境を改善し、その一端としてMMP-9/TIMP-1のバランスを整えることで、KOAの症状改善に寄与する可能性がある」というものです。
鍼灸師として知っておきたい “背景知識”

MMP-9/TIMP-1って何?
- MMP-9(マトリックスメタロプロテイナーゼ-9)は、細胞外マトリックス(ECM:extracellular matrix)を分解する酵素のひとつです。軟骨や滑膜・骨下骨の構造変化に関わるとされることがあります。
- TIMP-1(Tissue Inhibitor of Metalloproteinase-1)は、MMPを抑制する働きを持つタンパク質。つまり、MMPが「壊す側」なら、TIMPは「抑える側」と考えられます。
- 関節症の場面では、MMPの活性が過剰になると、マトリックスの分解が進み過ぎてしまい、軟骨がすり減りやすかったり、滑膜や骨変化が進行しやすかったりします。逆に、TIMPが適切に働いていないと、分解が抑えられず病変進行の一因になることも。
- つまり、「MMP↑・TIMP↓」もしくは「MMP/TIMP比↑」という状態は“破壊優位型”のマトリックス環境を意味する可能性があり、鍼灸治療としてそこにアプローチする視点も出てきています。
なぜこの研究で鍼+灸が効果を出したのか?
- 鍼治療は、疼痛軽減・筋・腱・関節包・滑膜などへの神経・血流・リンパ・炎症反応への影響が報告されています。灸は温熱刺激を加えることで、血流促進・代謝アップ・冷え・湿・凝りの改善など、東洋医学的には「温めて流す」作用が期待されます。
- 変形性膝関節症は、軟骨の摩耗だけでなく滑膜の炎症・関節包・関節液の貯留・骨下骨の変化など、複合的な病態を含んでいます。こうした「流れが滞る・温度低下・湿気・冷え」などの東洋医学的因子が関係しているとされることも多く、灸の併用が“環境を整える”意味を持つ可能性があります。
(※ここはちょっと強引な解釈かもです) - この研究では、鍼+灸併用群でMMP-9/TIMP-1のバランスがより良好に整ったという結果が出ています。つまり、鍼+灸によって“マトリックス破壊側の酵素活動”が抑えられ、“抑制側(TIMP-1)”あるいは“修復側(IGF・BGPなど)”が上がる方向に働いた可能性があります。
- 鍼灸師としては、「ただ痛みをとる」という治療から、「関節内環境・代謝環境を整える(=破壊と修復のバランスを整える)」という視点にまで治療目的を広げるきっかけになります。
臨床で使えるヒント(鍼灸師向け)

対象・頻度・手技設計の参考に
- 対象としては、変形性膝関節症の典型的な患者さん(膝痛・可動域制限・階段がつらい・膝が冷えるなど)を想定。研究では「毎日1回・週6回・4週間」という比較的ハードな頻度で実施されています。
- 鍼穴位選びの参考:足三里(ST36)、内膝眼(EX-LE4)、鶴頂(EX-LE2)、懸鐘(GB39)など。観察群にはさらに「膝部灸箱」を使用して灸を30分加えてあります。
- 臨床でそのまま頻度を真似るのは難しいかもしれませんが、「集中して4〜6週」「週4〜5回」など、比較的こまめに通ってもらえるプランを想定することで、代謝改善のスイッチが入りやすくなります。
- 患者説明として使える言葉:
- 「ただ痛みをとるだけでなく、関節内の細胞外マトリックスの“壊す/作る”のバランスを整える治療をしています」
- 「鍼+灸で、温めて流れをよくし、関節内の代謝環境が改善される可能性があります」
- 「実際に血液マーカーの変化も確認された研究があります」
- 治療手技の注意点:灸併用時は、温熱量・患者の感じ方・皮膚状態・火傷リスクなど、安全管理を十分に。研究では「箱灸を用いて30分」の記載がありますが、臨床では患者の体調・皮膚状態・合併症(例えば糖尿病・血行障害など)を考慮してください。
患者への説明にも使える“代謝改善”視点
鍼灸を行う際、「痛い・曲がらない」などの症状改善に加えて、次のような説明を添えると患者さんの理解や納得が深まります。
- 「膝の関節の中では、軟骨や骨・滑膜といった組織が常に“壊され・作られる”というサイクルを回しています」
- 「そのサイクルが崩れて“壊す方が優勢”になると、軟骨が減ったり、関節の腫れ・水がたまりやすくなったりします」
- 「鍼+灸によって、その“壊す側”の酵素(MMP-9)が減り、“抑える側”のタンパク(TIMP-1)が整うという研究結果も出ています」
- 「つまり、痛みをとるだけでなく、関節内の代謝環境を整える治療をしています」
このような言葉を添えることで、患者さんに「今の治療がただのマッサージや温めとは違う」という印象・信頼を持ってもらいやすくなります。
実践上の留意点・限界
- 研究対象の患者さんがどの程度の進行度(変形の度合い・期間)であったかの詳細は論文からは読み取りきれません。鍼灸師としては「軽~中等度の変形例」や「比較的新しい症状」の方が反応が出やすい可能性を意識するとよいでしょう。
- 頻度・回数が高い設計であるため、実際の臨床では通院頻度が落ちると効果がやや鈍る可能性があります。治療プランは「まず集中(4〜6週間)」→「維持(週1〜2回)」など段階的に検討しましょう。
- マーカー改善=必ず軟骨や骨が元通りになるわけではありません。あくまで“改善の方向性”が示されたに過ぎない点を、過度に期待させない説明も重要です。
- 安全管理をしっかり。特に灸を使う際は皮膚トラブル・熱傷・患者の全身状態(糖尿病・血液疾患・血行障害など)に注意を払ってください。
まとめ
今回ご紹介した研究は、「鍼+灸併用」が、変形性膝関節症の患者さんにおいて、痛み・機能改善に加えて、関節内・骨代謝のマーカー(MMP-9/TIMP-1)という“見えない数値”にも作用を及ぼしたという報告です。
鍼灸師としては、次のように捉えることができます。
- 鍼治療に灸をプラスすることで、治療の幅・深さが広がる可能性がある。
- 「代謝改善」「マトリックスバランスを整える」という言葉を治療説明に使うことで、患者さんに治療の意味を伝えやすくなる。
- ただし、適用対象・頻度・手技・安全管理・期待値の調整などには注意が必要であり、万能ではない点を正直に説明することも大切。
私たち鍼灸師がこの研究をなどを参考にして、「膝変形性関節症」に対してより深みのある治療設計・説明力・信頼構築をおこないQOLに寄与出来るように行けたらと思っています。


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