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こんにちは!
陣内です。
今回も論文をもとに記事を書いていきたいと思います。
いつもながら私は研究者でも教育者でもないので生温かく見守っていただければ幸いです。
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あくまで私の私見も入っていますので全てを鵜吞みにしないようにしてくださいね‼
はじめに

経皮的電気神経刺激(TENS)は、40年以上にわたって疼痛に対して使用されてきた治療法ですね。まさに物理療法の基礎ともいえる機器です。
臨床現場では日常的に使用されていますが、実は「パルス幅を変えると実際にどのくらい深部まで刺激が届くのか」という基本的な疑問について、これまで定量的な解析はあまり行われてこなかったんです。
今回ご紹介するGuillenらの研究は高精度な3次元有限要素モデルを用いて、この疑問に真正面から取り組んだ画期的な計算論的研究です。
この論文は2025年4月にFrontiers in Pain Researchに掲載されました。
この記事を書いているときにはかなり最新の論文となります。
研究の背景と臨床的意義

市販されているTENS機器は、周波数、パルス幅、強度の組み合わせによって様々な治療モードを提供しています。
従来から臨床的に幅の広いパルス幅は「より深い刺激感覚」をもたらすと経験的に知られていましたし、機能的電気刺激(NMES)など他の電気刺激モダリティでは幅の広いパルス幅が深部組織の活性化に有効であることが示されていました。
しかし、TENSにおいてパルス幅と刺激深度の関係を定量的に可視化した研究はほとんどありませんでした。
多くの場合、治療モードの選択は「患者さんが感じる心地よさ」という主観的な基準に基づいて行われてきたわけです。
もちろんこれも重要な要素ですが、もし標的神経の深さに応じて最適なパルス幅を選択できるとしたらより効果的な治療が可能になるかもしれません。
研究手法:最先端のシミュレーション技術

この研究の強みは、非常に精緻なモデリング手法にあります。Sim4Life(v7.0.1)とNEURONソルバー(v7.2.3.12730)という最先端のシミュレーションプラットフォームを組み合わせて解析を行っています。
解剖学的モデルの構築
研究チームは、前腕の高解像度3次元モデルを使用しました。
このモデルは0.1×0.1×0.1mmという非常に細かい解像度のデータから構成されており、皮膚、脂肪、筋肉、骨、血管、そして重要な神経構造まで含まれています。
特に正中神経を標的神経として設定し、その興奮性を詳細に解析しました。
電場分布の計算
電極配置は前腕に一般的に使用される構成を採用し、電極間の距離や大きさも臨床的な設定を反映しています。
各組織の電気伝導度を適切に設定することで、電流が流れたときに生じる電場(E-field)の分布を計算しました。
神経モデルとの統合
電場分布の計算だけでなく、McIntyre-Richardson-Grill(MRG)軸索モデルという、感覚神経の挙動を精密に再現できる数学モデルと統合しました。
TENSの効果は感覚神経を興奮させることで鎮痛効果を発揮するという機序が知られていますから、このアプローチは理にかなっていますね。
主要な研究結果

強度-持続時間曲線の特性
まず、正中神経の強度-持続時間(S-D)曲線を解析したところ、レオベースは1.75mA、クロナキシーは232μsという値が得られました。これらの値は神経刺激の基本特性を表すもので、臨床設定の参考になる重要なデータです。
ここで少し専門的な用語の説明をさせてください。
レオベース(rheobase)とは、
無限に長いパルス幅(実際には非常に長いパルス)を与えたときに、神経を興奮させるのに必要な最小の電流強度のことです。つまり、その神経の「基礎的な興奮閾値」を表す指標と言えます。
一方、クロナキシー(chronaxie)は、
レオベースの2倍の電流強度で神経を刺激するときに必要な最小パルス幅のことです。これは神経の「時間的な興奮特性」を表す指標で、短いクロナキシーを持つ神経は素早く反応し、長いクロナキシーを持つ神経はゆっくり反応する傾向があります。
この2つのパラメータを測定することで、その神経固有の興奮特性を特徴づけることができます。古典的な神経生理学の概念ですが、電気刺激治療のパラメータ設定を考える上で、今でも非常に有用な指標なんですね。今回の研究で得られた正中神経のクロナキシー232μsという値は、臨床的なTENS設定を考える際の重要な参照点となります。
パルス幅と活性化体積の関係
この研究で最も注目すべき発見は、パルス幅と活性化組織体積(VTA)の関係についてです。研究では30μsから495μsまでのパルス幅範囲を検討しました。
同じ電流強度で比較した場合、短いパルス幅では活性化される組織の体積が小さく、長いパルス幅では大きくなることが明確に示されました。驚くべきことに、最長のパルス幅と最短のパルス幅を比較すると、VTAに21倍もの差があったんです。
さらに重要な発見として、この研究で検討した条件範囲内では、パルス幅と刺激深度の間に線形関係が認められました。
つまり、パルス幅を長くすればするほど、刺激深度も比例的に増加するという関係です。
可視化による新しい洞察
研究チームは電場分布やVTAマップを詳細に可視化しています。
これにより、パルス幅の変化に応じて、どのように刺激が深部組織に到達していくかを視覚的に理解することができます。手首に近い電極(電極2)からの電場パターンの変化も、各パルス幅で明確に示されています。
臨床への示唆

治療モード選択の新しい視点
この研究結果は、TENS治療における治療モード選択に新しい視点を提供します。従来は「患者さんの感じる心地よさ」を基準に治療モードを選んでいましたが、今後は「標的神経の深さ」も考慮に入れた選択が可能になるかもしれません。
たとえば、比較的浅い部位の表在性疼痛には短いパルス幅で十分かもしれませんし、深部の神経由来の疼痛には長いパルス幅が有効である可能性があります。電流強度を上げるのではなく、パルス幅を調整することで深部刺激を実現できれば、患者さんの不快感を最小限に抑えながら効果的な治療ができるでしょう。
つまり解剖学もより3Dとして頭に入れておくべきですね。
実用上の考慮事項
もちろん、実臨床での応用にあたっては、いくつか考慮すべき点があります。
パルス幅を長くすることで刺激深度を増やせますが、理論的にはバッテリーの消費が増えるという問題があります。ただし、著者らも指摘しているように、現代のTENS機器は高容量の充電式バッテリーを搭載しているため、これはそれほど大きな懸念ではないかもしれません。
また、この研究で示された線形関係は、ある範囲内でのみ成り立つ可能性があります。極端に長いパルス幅では、おそらくどこかでプラトーに達するでしょう。
その限界点を明らかにすることが、今後の研究課題の一つだとも書いています。
研究の限界と今後の展望

モデルの妥当性
この研究は計算論的アプローチであるため、いくつかの仮定と簡略化が含まれています。たとえば、組織の電気伝導度は等方性(どの方向にも同じ)と仮定されていますが、実際の生体組織、特に筋肉などは異方性(方向によって性質が異なる)を持ちます。
しかし、著者らが使用した基本方程式や神経モデル(MRG)は、他の研究でも妥当性が検証されており、特にTENSについては哺乳類神経モデルと比較して正確な予測ができることが示されています。したがって、この研究の主要な結論は十分に信頼できるものと考えられます。
今後の発展の可能性
深部神経へのアクセスを改善する方法として、TENSと神経カフ電極の組み合わせなど、革新的なアプローチも提案されています。ただし、神経カフは外科的処置が必要であり、現時点では実用段階には至っていません。
計算論的モデリングとシミュレーションは、様々な電気刺激モダリティにおいて、治療の最適化や安全性評価に活用されています。今回のような研究は、臨床試験を行う前にパラメータ設定の見当をつけたり、メカニズムを理解したりする上で、非常に価値があります。
まとめ
この研究は、TENSにおけるパルス幅と刺激深度の関係を、高精度な計算論的アプローチによって初めて定量的に明らかにしました。主要な知見は以下の通りです。
- パルス幅を長くすることで、活性化組織体積が大幅に増加する(最大21倍)
- 検討された条件範囲内で、パルス幅と刺激深度は線形関係にある
- 標的神経の深さに応じた治療モード選択の可能性が示唆される
これらの知見は、TENS治療をより科学的根拠に基づいて実施するための重要な基礎データとなります。患者さんの主観的な快適さという要素を大切にしながらも、標的とする神経の深さという客観的な要素も考慮に入れることで、より効果的な疼痛管理が可能になるかもしれません。
計算論的神経科学の手法が、こうした臨床的に重要な問いに答えを出し始めているのは、とても興味深い展開ですね。今後、このような研究成果が実際の臨床ガイドラインに反映されていくことが期待されます。
参考文献
Guillen A, Truong DQ, Cakmak YO, Li S, Datta A. The interplay between pulse width and activation depth in TENS: a computational study. Front Pain Res. 2025;6:1526277.


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