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はじめに

電気鍼(EA)の抗炎症効果については、近年多くの研究が行われており、その作用機序が少しずつ明らかになってきています。2021年にNature誌に掲載されたMa博士らの研究では、電気鍼が「迷走神経-副腎軸を駆動する」ことで抗炎症効果を発揮すると報告されました。しかし、Fan博士らが指摘したように、電気鍼の抗炎症メカニズムは単一の経路に限定されるものではなく、複数のシステム、レベル、標的を調節する包括的なものである可能性が示唆されています。
本稿では、コリン作動性抗炎症経路(CAIP)を中心に、電気鍼がもたらす多層的な抗炎症メカニズムについて、最新の研究知見を交えながら解説していきます。
コリン作動性抗炎症経路の基本メカニズム

迷走神経と免疫系の対話
コリン作動性抗炎症経路は、2000年代初頭にBorovikovaらによって報告された神経-免疫調節の重要な経路です。この経路は、いわば脳と免疫系をつなぐ「電話回線」のようなもので、炎症反応を適切にコントロールする役割を担っていると考えられます。
迷走神経は副交感神経系の約70%を占め、脳と内臓器官をつなぐ機能的な橋渡し役として働いており、末梢臓器で産生される炎症性サイトカインが迷走神経の求心性線維を活性化し、脳幹の孤束核から迷走神経背側核へのシナプス伝達を介して迷走神経遠心性線維を刺激することで、炎症メディエーターの産生を下方制御する可能性が示されています。
7ニコチン性アセチルコリン受容体の役割
このメカニズムの中心に位置するのが、α7ニコチン性アセチルコリン受容体(α7nAChR)です。迷走神経刺激による抗炎症効果は、α7nAChRを介したマクロファージの活性化によって媒介され、これがコリン作動性抗炎症経路と呼ばれています。
たとえるなら、α7nAChRは免疫細胞の表面にある「ブレーキペダル」のようなものです。迷走神経から放出されたアセチルコリンがこのブレーキペダルを踏むことで、マクロファージやその他の免疫細胞による炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6など)の過剰な産生が抑制されると考えられています。
電気鍼によるコリン作動性抗炎症経路の活性化

足三里(ST36)刺激の特異性
低強度の電気刺激を足三里(ST36)に行うと迷走神経-副腎軸を駆動できるのに対し、腹部の足三里(ST25)では同様の効果が得られないことが示されており、これは体領域特異性の存在を示唆しています。
興味深いことに、PROKR2Creでマークされた感覚ニューロンが、深部の後肢筋膜(骨膜など)には分布しているが腹部筋膜(腹膜など)には分布していないことが、迷走神経-副腎軸の駆動に重要であることが示されました。これは、経穴の効果が単なる「気分的なもの」ではなく、明確な神経解剖学的基盤に基づいている可能性を示唆する重要な知見といえるでしょう。
急性膵炎モデルでの研究成果
足三里への電気鍼刺激が迷走神経活動を増加させ、全身性炎症を抑制し、膵臓の組織病理学的変化や白血球浸潤を軽減することが報告されています。さらに、急性膵炎の誘導により膵臓内のα7nAchR陽性マクロファージの頻度が著しく低下したのに対し、電気鍼はこの現象に対抗する効果を示しました。
これらの効果は迷走神経切断によって減弱したことから、迷走神経を介した経路の重要性が裏付けられています。
迷走神経-副腎軸を超えたメカニズム

視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)の調節
Fan博士らが指摘するように、電気鍼の抗炎症メカニズムは迷走神経-副腎軸だけに限定されるものではありません。HPA軸もまた、重要な役割を果たしている可能性があります。
完全フロイントアジュバント(CFA)誘発性の後肢炎症および痛覚過敏のラットモデルを用いた研究では、電気鍼治療が血漿副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)レベルを増加させ、視床下部の傍室核(PVN)においてコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)含有ニューロンを活性化することが示されました。
HPA軸を「ストレス対応システム」に例えるなら、視床下部が司令塔、下垂体が中継局、副腎が実行部隊のような関係にあります。手術外傷によるHPA軸の過活動は、視床下部CRH、血清ACTH、コルチコステロン(CORT)の発現増加として現れ、電気鍼はこのHPA軸の過活動を緩和する効果を示すと報告されています。
ドーパミンを介した経路
さらに興味深いことに、坐骨神経への電気鍼刺激が全身性炎症を制御し、多菌性腹膜炎からマウスを救済することが示され、その際、電気鍼が迷走神経の活性化を誘導し、副腎髄質における芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼを活性化させてドーパミン産生を促進することが明らかになりました。
このドーパミン経路は、従来のアセチルコリンを介した経路とは異なる新たなメカニズムであり、電気鍼の作用の複雑さを物語っています。
局所的なメカニズム:肥満細胞とプリン作動性シグナル伝達

肥満細胞の脱顆粒
電気鍼の効果を理解する上で、局所的なメカニズムも見逃せません。鍼刺激による機械的ストレスに応答して、組織内の細胞からATP、ADP、アデノシン、UTP、UDPなどのプリンおよびピリミジン化合物が細胞外に放出されることが知られています。
皮膚の肥満細胞は経穴に高密度で存在し、TRPV1、TRPV2、TRPV4受容体や塩化物チャネルなど、複数の機械感受性チャネルを発現しているため、機械的刺激に敏感に反応します。鍼操作によって生じる力とトルクは、コラーゲンネットワークを介して間接的に肥満細胞を活性化します。
肥満細胞を「警報装置」に例えるなら、鍼刺激という「異常事態」を感知すると、ヒスタミン、セロトニン、ATP、アデノシンといった様々な「シグナル物質」を放出するのです。
アデノシンによる鎮痛・抗炎症効果
健常男性ボランティアでは30分間の鍼治療により足三里(ST36)の間質アデノシン濃度が増加し、マウスの足関節炎モデルでも30分の鍼治療に応じて足三里にアデノシンがAMP、ADP、ATPとともに蓄積することが示されています。
アデノシンはA1受容体を活性化することで鎮痛効果を発揮するとともに、炎症性サイトカインの産生を抑制する可能性も示唆されています。
免疫細胞の調節:マクロファージと T細胞

マクロファージの極性化制御
電気鍼は炎症促進性M1マクロファージの増殖と分化をブロックする一方で、抗炎症性M2表現型の数を増加させ、IL-10などの抗炎症性サイトカインの分泌を促進することが報告されています。
マクロファージの極性化を「交通信号」に例えるなら、M1は「赤信号」で炎症を加速させ、M2は「青信号」で組織修復を促進します。電気鍼は、この信号を適切に切り替える「交通整理」の役割を果たしていると考えられます。
T細胞バランスの調整
慢性炎症性疾患モデルにおいて、電気鍼がヘルパーT細胞(Th)1/Th2の集団バランスを調整することで免疫機能不全を治療することが示されています。Th1は細胞性免疫を、Th2は液性免疫を担当しており、そのバランスが崩れると様々な疾患につながります。
健常ボランティアを対象とした研究では、経絡点への鍼刺激後にCD2+、CD4+、CD8+、CD11b+、CD16+、CD19+、CD56+細胞の数、およびIL-4、IL-1β、IFN-γのレベルが統計的に有意に増加することが示されました。これは、電気鍼が免疫系を広範囲に調節している証拠といえるでしょう。
炎症性サイトカインとシグナル伝達経路

多様なサイトカインの調節
電気鍼は動物モデルにおいて、TNFα、IL1β、IL6、ミエロペルオキシダーゼのレベルを調節し、スーパーオキシドジスムターゼを増加させる一方で、カスパーゼ3などの死関連タンパク質やp38およびJNKのリン酸化を減少させることが報告されています。
これらの変化は、電気鍼が単一のサイトカインではなく、複数の炎症性メディエーターのネットワーク全体に影響を与えることを示唆しています。
TLR経路とNF-κBの抑制
電気鍼は様々な炎症性疾患モデルにおいて、トル様受容体(TLR)が開始する炎症性シグナル伝達経路を下方制御することが示されており、特にIL-10などの抗炎症性サイトカインの上方制御がM1-M2マクロファージの転換を促進し、炎症の解消に重要な役割を果たすとされています。
TLRは「病原体センサー」として働き、その活性化はNF-κBという「炎症スイッチ」をオンにします。電気鍼はこのスイッチを適切にコントロールすることで、過剰な炎症反応を防いでいる可能性があります。
臨床的意義と課題
低強度刺激の重要性
低強度の電気鍼が臨床実践および一部の炎症動物モデルにおいて炎症治療に有効であることが共通の結論として示されており、電気鍼が炎症を治療するメカニズムには、複数のシステム、レベル、標的の調節が含まれ、迷走神経-副腎軸の駆動に限定されないとされています。
実際の臨床では、強すぎる刺激は逆効果になる可能性があるため、適切な刺激強度の選択が重要になってきます。これは料理における「火加減」のようなもので、強すぎても弱すぎても望ましい結果は得られません。
経穴選択の特異性
GB30への低強度電気鍼が持続性炎症のラットモデルにおいて炎症を有意に軽減し、この効果は副腎皮質およびコルチコステロンとACTHの刺激と関連していたこと、また、低強度電気鍼や手鍼によるST25の刺激が消化管炎症に有効であったことが報告されており、これらの経穴はPROKR2Creマークされた感覚神経終末が豊富な領域ではないとされています。
つまり、すべての経穴が同じメカニズムで作用するわけではなく、経穴や疾患の種類によって異なる経路が活性化される可能性が示唆されます。
迷走神経-副腎軸に関する議論
興味深いことに、迷走神経副交感神経遠心性線維が副腎に直接神経支配しているという証拠は弱く、おそらく誤りである可能性が指摘されており、むしろ迷走神経求心性線維が副腎に直接神経支配しているという良好な証拠があるものの、その機能は不明確であるとされています。
これは、「迷走神経-副腎軸」という概念自体の見直しを迫るものであり、実際には迷走神経求心性シグナルが中枢神経系を介して間接的に副腎依存性の抗炎症反応を修飾している可能性が示唆されています。
統合的理解に向けて

現在の研究から明らかになっているのは以下の点です:
- 神経系の関与:迷走神経、脊髄交感神経、体性感覚神経など、複数の神経経路が関与している可能性があります。
- 内分泌系の調節:HPA軸の調節を介して、コルチコステロンやACTHなどのストレスホルモンの産生が影響を受けます。
- 免疫系の直接調節:マクロファージ、T細胞、NK細胞などの免疫細胞の活性と極性化が調節されます。
- 局所的メカニズム:肥満細胞の脱顆粒、プリン作動性シグナル伝達、アデノシンの放出など、刺激部位での局所的な変化も重要です。
- サイトカインネットワークの調整:炎症性および抗炎症性サイトカインのバランスが広範囲に調整されます。
おわりに
電気鍼の抗炎症メカニズムは、当初考えられていたよりもはるかに複雑で多面的なものであることが明らかになってきています。「迷走神経-副腎軸を駆動する」という概念は重要な発見ではありますが、それは全体像の一部に過ぎないと考えられます。
今後の研究では、これらの複数のメカニズムがどのように相互作用し、どのような条件下でどの経路が優位になるのかを解明していく必要があるでしょう。また、経穴の特異性、刺激パラメータの最適化、個人差への対応など、臨床応用に向けた課題も残されています。
電気鍼の研究は、伝統医学と現代科学の架け橋として、神経-免疫-内分泌の統合的理解を深める貴重な機会を提供しています。この分野のさらなる発展により、より効果的で安全な炎症治療法の開発につながることが期待されます。
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