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こんにちは!
陣内です。
今回も論文をもとに記事を書いていきたいと思います。
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今回は
この論文を中心に記事を書いていきたいと思います。
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では内容に入っていきましょう♪

はじめに

鍼灸治療は、数千年の歴史を持つ東洋医学の代表的な治療法です。鍼を特定の場所に刺し、回したり電気刺激を加えたりすることで、痛みの緩和や自律神経の調整、心臓や血管の機能改善など、さまざまな効果をもたらすとされています。
近年では、世界中の医療機関でも鍼灸が取り入れられるようになってきました。
システマティックレビューやメタアナリシスといった信頼性の高い研究手法による検討の結果、慢性痛、腰痛、膝の変形性関節症、術後の吐き気・嘔吐、片頭痛、緊張型頭痛などの疾患において、鍼灸治療に一定の効果があることを示す証拠が蓄積されてきています[1]。
しかし、「なぜツボに針を刺すと効くのか」という根本的な疑問に対しては、長らく科学的な説明が困難でした。
従来は「気の流れを整える」といった概念などで説明されてきましたが、現代科学の観点からその仕組みを理解しようとする研究が、近年大きく進展しています。
今回ご紹介する研究は、ウサギの急性徐脈(心拍数が急に下がる状態)モデルを用いて、「内関(ないかん)」という手首のツボへの電気鍼治療がどのように心臓機能を改善するのか、そのメカニズムを細胞・分子レベルで解明しようとしたものです。
この研究を中心に、関連する複数の研究成果を交えながら、鍼灸がなぜ効くのかについてお伝えしていきたいと思います。
研究の概要:ツボの「特異性」を検証する

実験の目的と方法
この研究で研究者たちが注目したのは、「ツボの特異性」という現象です。つまり、身体のどこに針を刺しても同じ効果が得られるわけではなく、特定のツボでなければ期待される治療効果が得られないのではないか、という問いかけです。
実験では、ウサギにピトレシン(下垂体ホルモン製剤)を投与して急性の徐脈を誘発しました。心拍数が正常時の約50%まで低下するという、かなり深刻な状態を人工的に作り出したわけです。
そこに電気鍼刺激を行うのですが、重要なのは複数の場所で比較したことです。内関(PC6)という心臓関連の代表的なツボだけでなく、その近くにある別のツボ(LU7やLI11)、内関と同じ経絡上にある対照点(PC con 1、PC con 2)、そしてツボではない場所(非経穴)にも刺激を行い、効果を比較しました。
主要な結果
結果は明確でした。内関(PC6)への電気鍼刺激を行ったグループだけが、統計学的に有意な心拍数の改善を示しました。他のツボや非経穴への刺激では、モデル群と比較して有意な改善は見られなかったのです。
この結果は、鍼灸治療における「ツボの特異性」が実際に存在することを示唆しています。つまり、どこに針を刺しても同じというわけではなく、症状に応じた適切なツボを選択することが治療効果に大きく影響する可能性があるということです。
肥満細胞:ツボの「センサー」としての役割

ツボには肥満細胞が多い
では、なぜ内関への刺激だけが効果的だったのでしょうか。
研究者たちは、「肥満細胞」という免疫細胞に注目しました。
肥満細胞は1863年にフォン・レックリングハウゼンによって発見され、その後パウル・エールリッヒによって詳しく記載されたこの細胞は、骨髄で生まれた前駆細胞が血流に乗って末梢組織に移動し、そこで成熟して定着する免疫細胞です[2]。
興味深いことに、肥満細胞はツボの部位に特に高密度で存在することが、複数の研究で報告されています。ラットの足三里(ST36)というツボでは、周囲の組織と比較して結合組織と筋肉の両方で肥満細胞の密度が高いことが確認されています[3]。内関(PC6)や列缺(LU7)といったツボでも、非経穴と比較して肥満細胞の密度が有意に高いことが示されています。
ツボの構造を詳しく見ると、コラーゲン線維が豊富に存在し、血管、神経、リンパ管と結合組織が複雑なシステムを形成していることがわかります[2]。そして肥満細胞は、この結合組織の中で血管や神経の近くに戦略的に配置されているのです。
脱顆粒:肥満細胞が「シグナル」を発信する仕組み
肥満細胞の最も重要な機能の一つが「脱顆粒」です。肥満細胞の内部には、ヒスタミン、セロトニン、ATP、アデノシンなど、さまざまな生理活性物質を含む顆粒が詰まっています。何らかの刺激を受けると、細胞膜が開いてこれらの物質が放出されます。これが脱顆粒です。
今回の研究で注目すべき発見は、内関への電気鍼刺激後の肥満細胞の脱顆粒率が、他のツボや対照点と比較して有意に高かったことです。つまり、治療効果が最も高かったツボで、肥満細胞の活性化も最も顕著だったのです。
さらに重要な証拠があります。クロモグリク酸ナトリウムという薬剤は、肥満細胞の膜を安定化させ、脱顆粒を抑制する作用があります。この薬剤を内関に事前投与してから電気鍼刺激を行うと、肥満細胞の脱顆粒が抑制されるだけでなく、心拍数と血圧の改善効果も消失してしまいました。
この結果は、肥満細胞の脱顆粒が鍼灸の治療効果に必須であることを強く示唆しています。
鍼刺激はどのように肥満細胞を活性化するのか

コラーゲン線維を介した力学的シグナル伝達
鍼をツボに刺入し、回転させたり上下させたりすると、周囲の組織に物理的な力が加わります。この機械的刺激がどのように肥満細胞に伝わるのかについて、詳細な研究が行われています。
ツボの部位には、コラーゲン線維が豊富かつ規則的に配列していることが知られています[2]。鍼の操作によってこのコラーゲン線維が変形し、絡まり合います。そして、コラーゲン線維のネットワークを介して機械的な力が伝達され、その近くに存在する肥満細胞に刺激が届くと考えられています[3]。
実際、コラーゲン線維の重要性を示す実験があります。コラーゲン線維を分解する処置を行った後に鍼刺激を行うと、その鎮痛効果が大幅に減少したという報告があります。つまり、コラーゲン線維は単なる構造的な足場ではなく、鍼刺激のシグナルを伝達する上で機能的に重要な役割を果たしていると考えられます。
TRPV2チャネル:肥満細胞の「機械センサー」
肥満細胞がどのようにして物理的な刺激を感知するのか。その鍵を握るのが、TRPV2(transient receptor potential vanilloid 2)というイオンチャネルです[4]。
TRPV2は、熱や機械的刺激によって活性化されるカルシウム透過性のイオンチャネルで、肥満細胞の細胞膜上に発現しています。鍼による機械的刺激がこのチャネルを開き、細胞外からカルシウムイオンが流入することで、肥満細胞の脱顆粒が引き起こされると考えられています。
この仮説を検証するために、TRPV2遺伝子を欠損させたマウスを用いた研究が行われました。結果は劇的でした。関節炎を誘発した野生型マウスでは、鍼治療によって痛みの閾値が上昇し、鎮痛効果が認められました。しかし、TRPV2を欠損したマウスでは、鍼治療による鎮痛効果がほぼ完全に消失し、同時にツボ局所での肥満細胞の脱顆粒も著しく減少していたのです[4]。
この研究は、TRPV2チャネルが鍼刺激を細胞内シグナルに変換する上で決定的な役割を果たしていることを示しています。肥満細胞は、このチャネルを介して機械的刺激を「感知」し、脱顆粒という形で応答しているのです。
アデノシン:鎮痛効果の「実行者」

ツボ局所でアデノシン濃度が上昇する
肥満細胞が脱顆粒すると、さまざまな生理活性物質が放出されます。その中でも特に注目されているのがアデノシンです。
今回ご紹介している研究では、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてツボ局所のアデノシン濃度を測定しました。その結果、電気鍼刺激中に内関および同じ経絡上の対照点でのみ、アデノシン濃度の一過性の上昇が観察されました。しかも、電気鍼を止めるとアデノシン濃度は再び低下することも確認されています。
このアデノシンの一過性上昇は、他のツボや非経穴では観察されませんでした。つまり、治療効果と肥満細胞の脱顆粒、そしてアデノシン放出の三者が連動している可能性が示されたのです。
アデノシンA1受容体と鎮痛メカニズム
アデノシンが鍼灸の鎮痛効果に関与することを示した画期的な研究が、2010年にNature Neuroscience誌に発表されました[5]。この研究では、マウスの足三里(ST36)への鍼刺激後に、局所のアデノシン濃度が上昇することが確認されました。
さらに重要な発見は、アデノシンA1受容体を欠損したマウスでは、鍼による鎮痛効果が完全に消失したことです。逆に、アデノシンA1受容体の作動薬をツボに直接投与すると、鍼治療と同様の鎮痛効果が再現されました。
また、アデノシンの分解に関わる酵素を阻害する薬剤を投与すると、鍼刺激によるアデノシン濃度の上昇がより長く持続し、鎮痛効果も延長することが確認されています[5]。
この一連の研究は、アデノシンが鍼灸の鎮痛効果を媒介する主要な分子の一つであり、その作用がアデノシンA1受容体を介していることを明確に示しています。
ヒスタミンの役割
肥満細胞から放出されるもう一つの重要な物質がヒスタミンです。関節炎モデルラットを用いた研究では、ヒスタミンH1受容体の作動薬をツボに投与すると、鍼治療と同様の鎮痛効果が得られることが報告されています[4]。
逆に、H1受容体の拮抗薬を投与すると、鍼の鎮痛効果が減弱しました。さらに興味深いことに、ヒスタミンやアデノシンの受容体を活性化すると、脳脊髄液中のβ-エンドルフィン濃度が上昇することも確認されています。β-エンドルフィンは、脳内で産生される内因性のオピオイドペプチドで、強力な鎮痛作用を持ちます。
つまり、ツボ局所で起こる肥満細胞の活性化と化学物質の放出が、末梢神経を介して中枢神経系に伝達され、最終的に脳内でのオピオイドペプチド放出につながるという、末梢から中枢に至る一連の経路が存在する可能性が示されています。
鍼灸と心臓血管系:内関(PC6)の特別な役割

内関の伝統的な意義
内関(PC6)は、手首から約2寸(指2〜3本分)ほど上方、橈側手根屈筋腱と長掌筋腱の間に位置するツボです。心包経に属し、伝統的中医学では心臓を守る気の流れと関連付けられてきました。
古来、内関は心臓や胸部の症状、動悸、不整脈、胸の圧迫感、さらには精神的な不安や吐き気の治療に用いられてきました[6]。現代の臨床試験でも、術後の吐き気・嘔吐、化学療法に伴う悪心などに対する内関刺激の有効性が確認されています[7]。
心臓血管機能への影響メカニズム
なぜ内関への刺激が心臓機能に影響を与えるのでしょうか。神経生理学的な研究によると、内関への電気鍼刺激は、脳幹の延髄腹外側部(rVLM)、弓状核(ARC)、中脳水道周囲灰白質(vlPAG)などの心臓血管機能を調節する脳領域の活動を修飾することがわかっています[6]。
これらの領域は、交感神経系の活動を制御する上で重要な役割を果たしています。内関への刺激は、これらの領域を介して交感神経の過剰な興奮を抑制し、結果として血圧の上昇を緩和したり、心拍数の異常を是正したりすると考えられています。
カリフォルニア大学アーバイン校のLonghurst教授らの研究グループは、高血圧患者を対象とした臨床試験を実施しています[8]。その結果、内関と足三里(PC5-6 + ST36-37)への週1回、8週間の電気鍼治療により、約70%の患者で収縮期血圧と拡張期血圧の両方が有意に低下しました。しかも、この効果は治療終了後も1ヶ月間持続したのです。
興味深いことに、別の組み合わせのツボ(LI6-7 + GB37-39)への同様の刺激では、このような血圧低下効果は認められませんでした。この結果も、ツボの特異性を支持するものといえます。
鍼灸効果の分子メカニズム

ここまでの研究成果を統合すると、鍼灸がどのように効果を発揮するのか、その分子レベルでのメカニズムの概要が見えてきます。
まず、鍼がツボに刺入されると、その機械的刺激がコラーゲン線維を介して周囲の肥満細胞に伝達されます。肥満細胞の膜上にあるTRPV2チャネルがこの刺激を感知し、カルシウムイオンの流入が起こります。カルシウム濃度の上昇により肥満細胞は脱顆粒し、ヒスタミン、セロトニン、ATP、アデノシンなどの生理活性物質が放出されます。
これらの物質は、ツボ局所に存在する感覚神経の末端に作用します。特にアデノシンはA1受容体を、ヒスタミンはH1受容体を介して神経終末を活性化し、その情報が脊髄を経由して脳へと伝達されます。
中枢神経系では、この情報に応答してβ-エンドルフィンなどの内因性オピオイドペプチドが放出され、鎮痛効果が生じます。また、自律神経系の調節を介して、心臓血管機能や消化器機能など、さまざまな臓器機能にも影響を及ぼすと考えられています。
ツボによって効果が異なる「特異性」は、各ツボにおける肥満細胞の密度の違い、脱顆粒の効率の違い、そして周囲の神経支配の違いなどによって説明できる可能性があります。内関は心包経に属するツボですが、解剖学的には正中神経の上に位置しており、この神経を介した中枢への情報伝達が心臓血管機能の調節に関与していると考えられています[6]。
今後の展望と臨床への示唆
研究の限界と今後の課題
これらの研究成果は非常に興味深いものですが、いくつかの限界も認識しておく必要があります。
まず、多くの基礎研究は動物モデルを用いており、ヒトへの外挿には慎重さが求められます。ウサギやラット、マウスで得られた知見が、そのまま人間に当てはまるとは限りません。
また、肥満細胞やアデノシンだけが鍼灸効果の全てを説明しているわけではありません。鍼灸の作用機序は複雑で、オピオイド系、セロトニン系、GABA系など、複数の神経伝達物質系が関与していることが知られています。肥満細胞-アデノシン経路は、そのうちの一つの重要な経路を明らかにしたものと理解すべきでしょう。
さらに、臨床効果の検証においては、プラセボ効果の影響を完全に排除することが困難という課題があります。鍼治療では、完全な「偽鍼」を設定することが技術的に難しく、被験者も施術者も治療内容を知らないダブルブラインド試験の実施には限界があります。
臨床実践への示唆
それでも、これらの研究成果は臨床実践にいくつかの重要な示唆を与えています。
第一に、ツボの選択が治療効果に影響を与える可能性が科学的に支持されたことです。経験的に受け継がれてきたツボの特異性という概念に、生物学的な基盤が存在する可能性が示されました。
第二に、適切な刺激方法の重要性です。電気鍼の場合、低頻度(2-4Hz)・低強度の刺激が心臓血管機能の調節に最も効果的であることが実験的に示されています[8]。
第三に、治療の反復と継続の意義です。1回の治療だけでなく、週1回、8週間といった継続的な治療によって、より持続的な効果が得られることが臨床試験で示されています。
おわりに
今回ご紹介した研究は、古くから伝わる鍼灸治療の効果メカニズムを、現代科学の手法で解明しようとする試みの一端です。肥満細胞の脱顆粒とアデノシンの放出という、比較的シンプルな分子メカニズムが、ツボの特異性や治療効果の生物学的基盤となっている可能性が示されました。
もちろん、これで鍼灸の全てが解明されたわけではありません。なぜ特定のツボに肥満細胞が多く存在するのか、経絡という概念の解剖学的・生理学的な実体は何なのか、まだ多くの謎が残されています。
しかし、東洋医学と西洋医学の統合という観点から見ると、このような基礎研究の進展は非常に重要な意味を持っています。経験に基づく治療法を科学的に検証し、そのメカニズムを解明することで、より効果的で安全な治療プロトコルの開発につながる可能性があるからです。
鍼灸治療を実践される専門家の皆様にとって、これらの知見が日々の臨床にお役立ていただければ幸いです。そして、東洋医学の知恵と現代科学の融合が、患者さんの健康と幸福に貢献することを願っています。
参考文献
[1] Hempel S, Taylor SL, Solloway MR, et al. Evidence Map of Acupuncture. Department of Veterans Affairs (US); 2014. / Kwon CY, et al. The state of evidence in acupuncture: A review of metaanalyses and systematic reviews of acupuncture evidence (update 2017–2022). Complementary Therapies in Medicine. 2025.
[2] Li Y, Yu Y, Liu Y, Yao W. Mast Cells and Acupuncture Analgesia. Cells. 2022;11(5):860.
[3] Zhu H, Wang X, Huang M, et al. Mast cell activation in the acupoint is important for the electroacupuncture effect against pituitrin-induced bradycardia in rabbits. Scientific Reports. 2017;7:9040.
[4] Huang M, Wang X, Xing B, et al. Critical roles of TRPV2 channels, histamine H1 and adenosine A1 receptors in the initiation of acupoint signals for acupuncture analgesia. Scientific Reports. 2018;8:6523.
[5] Goldman N, Chen M, Fujita T, et al. Adenosine A1 receptors mediate local anti-nociceptive effects of acupuncture. Nature Neuroscience. 2010;13:883-888.
[6] Li J, Li J, Chen Z, et al. The influence of PC6 on cardiovascular disorders: a review of central neural mechanisms. Acupuncture in Medicine. 2012;30(1):47-50.
[7] Birch S, Hesselink JK, Jonkman FA, et al. Clinical research on acupuncture. Part 1. What have reviews of the efficacy and safety of acupuncture told us so far? Journal of Alternative and Complementary Medicine. 2004;10(3):468-480.
[8] Li P, Tjen-A-Looi SC, Cheng L, et al. Long-Lasting Reduction of Blood Pressure by Electroacupuncture in Patients with Hypertension: Randomized Controlled Trial. Medical Acupuncture. 2015;27(4):253-266.


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