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こんにちは!
陣内です。
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それでは内容に入っていきましょう‼
私たちの体は、実は電気で動いているといっても過言ではないかもしれません。
心臓の拍動、神経のシグナル伝達、さらには細胞同士のコミュニケーションに至るまで、微弱な電気信号が生命活動を支えています。こうした生体電気の仕組みに着目し、外部から非常に弱い電流を与えることで体の自然な治癒力を高めようとする研究が、近年大きな注目を集めています。
今回は、バイオエレクトリック・メディスン(生体電気医療)の中でも特に「微弱電流刺激」と呼ばれる手法について、最新の研究知見を交えながらその仕組みや可能性をお伝えしていきたいと思います。
体の中の「電気の言葉」を知る

生体電気という考え方の歴史は古く、18世紀後半にルイージ・ガルヴァーニがカエルの脚に電気刺激を与える実験を行ったことに端を発するとされています。それ以来、私たちの体の中で電気がどのような役割を果たしているのかについて、多くの発見がなされてきました。
すべての細胞は、細胞膜を隔てて内側と外側で電位差を保っています。これを「膜電位」と呼びますが、この電位差はイオン、つまり電気を帯びた粒子のバランスによって生み出されています。ナトリウムやカリウム、カルシウムといったイオンが細胞の内外を行き来することで、細胞は情報を受け取ったり、周囲の環境に応答したりしているのです。
傷を負ったとき、損傷を受けた組織には「損傷電流」と呼ばれる電流が流れることが知られています。これは体が自然に発生させる電気信号であり、周囲の細胞に傷の存在を知らせ、修復プロセスを開始させるきっかけになっていると考えられています。
微弱電流刺激とは何か

電気刺激を用いた療法にはさまざまな種類があります。おそらく多くの方がご存じなのは、低周波治療器(TENS)ではないでしょうか。これは痛みを和らげる目的で広く使われており、電流の強さはミリアンペア(mA)単位で設定されます。また、電気筋肉刺激(EMS)は筋肉を収縮させてトレーニング効果を得るために用いられています。
一方、微弱電流刺激(マイクロカレント刺激、MCS)は、これらとは異なるアプローチをとります。その名の通り、使用する電流は非常に微弱で、マイクロアンペア(μA)、つまりミリアンペアの千分の一という極めて小さな値です。
この微弱な電流は、私たちの体が本来持っている生体電気の大きさに近いとされています。そのため、感覚神経を刺激することがほとんどなく、多くの場合、施術を受けている本人は電流が流れていることをほとんど感じません。
では、感じないほど弱い電流に、果たして効果があるのでしょうか。この素朴な疑問に対して、細胞レベルでの研究がいくつかの興味深い答えを示しています。
細胞のエネルギー工場を活性化する

微弱電流の効果を考える上で、最も注目されているのがATP(アデノシン三リン酸)という分子との関係です。ATPは「細胞のエネルギー通貨」とも呼ばれ、私たちの体のあらゆる活動を支えるエネルギー源として欠かせない存在です。
1982年に発表された研究[1]では、10μAから500μAの範囲の微弱電流をラットの皮膚組織に与えたところ、ATPの生成量が処理していない組織と比較して3倍から5倍にまで増加したという報告があります。興味深いのは、電流が1000μA(つまり1mA)を超えると、ATP産生量が横ばいになり、さらに強い電流では逆に減少したという点です。
つまり、「強ければ強いほど良い」というわけではなく、適切な範囲の微弱電流こそが細胞の働きを高める可能性があるということになります。
ATPの産生が増えると、細胞はより多くのエネルギーを使って、タンパク質の合成、細胞分裂、老廃物の排出といったさまざまな活動を活発に行えるようになります。傷ついた組織の修復や、新しい細胞の生成にもエネルギーが必要ですから、ATP産生の促進は組織の回復を助ける可能性があると考えられています。
体内のエネルギーセンサーAMPKとの関わり

細胞には、エネルギーの状態を監視し、必要に応じて代謝を調整する仕組みが備わっています。その中心的な役割を担っているのが、AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)という酵素です。
AMPKは、細胞内のエネルギーが不足してくると活性化し、エネルギーを消費する活動を抑えながら、エネルギーを産生する活動を促進します。いわば「細胞のエネルギー管理者」のような存在です[2]。
このAMPKは、カルシウムイオンの動きとも密接に関連しています。細胞の外から内へカルシウムイオンが流入すると、それがきっかけとなってAMPKが活性化されることがあります。微弱電流は、細胞膜に存在するイオンチャネル、特にカルシウムチャネルの開閉に影響を与える可能性があり、これが代謝調節のシグナルとして働くのではないかと考えられています。
AMPKは糖や脂質の代謝を調整するだけでなく、炎症反応を抑える働きにも関与しているとされています。具体的には、NF-κBという炎症を引き起こすシグナル経路を抑制することで、過剰な炎症反応を和らげる方向に作用すると報告されています[3]。
傷の治りを助ける働き
微弱電流の効果が最も広く研究されてきた分野の一つが、創傷治癒です。傷が治る過程では、血液の流れが良くなること、新しい血管が作られること(血管新生)、線維芽細胞という組織を作る細胞が活発に働くこと、そしてコラーゲンなどの細胞外マトリックスが形成されることが重要です。
複数のランダム化比較試験をまとめたメタ分析[4]では、通常の傷のケアに微弱電流療法を加えた群は、通常のケアのみの群と比較して、傷の面積の減少や治癒までの時間短縮において有意な改善がみられたと報告されています。
なぜ微弱電流が傷の治りを助けるのでしょうか。いくつかのメカニズムが提唱されています。
まず、微弱電流は血流を改善するとされています。糖尿病患者の足の血流を調べた研究では、微弱電流刺激後に血流量が有意に増加したという報告があります。血流が良くなれば、傷を治すために必要な酸素や栄養素が届きやすくなります。
また、VEGF(血管内皮増殖因子)という、新しい血管の形成を促すタンパク質の放出が増えることも観察されています。線維芽細胞の働きが活発になり、コラーゲンの産生が促進されることで、傷を埋める新しい組織が効率よく作られる可能性があります。
痛みの軽減について

慢性的な痛みに悩む方にとって、薬以外の選択肢は常に関心の高いテーマです。微弱電流療法は、筋骨格系の痛みに対する効果についても検討されています。
系統的レビュー[5]では、微弱電流療法は筋骨格系の痛みに対して一定の効果が期待できる可能性があると報告されています。ただし、研究によって結果にばらつきがあり、最適な電流の強さや周波数、治療期間などはまだ確立されていないのが現状です。
痛みを和らげる仕組みとしては、いくつかの仮説が考えられています。一つは、前述したATP産生の増加により、損傷した組織の修復が促進されることで、痛みの原因そのものが軽減される可能性です。また、炎症を抑えるシグナル経路への作用や、エンドルフィンなど体内の痛みを和らげる物質の放出を促す可能性も議論されています。
興味深いのは、創傷を持つ患者を対象とした観察研究[6]で、微弱電流療法の開始後48時間という早い段階から痛みの軽減が報告されていることです。鎮痛剤の使用量が減ったケースもあったといいます。
皮膚と美容への応用

微弱電流は、美容分野でも注目を集めています。「マイクロカレントフェイシャル」として知られる施術は、顔の筋肉のトーニングや、小じわの改善を目的として行われています。
皮膚の若々しさを保つ上で重要なのが、コラーゲンとエラスチンという二つのタンパク質です。コラーゲンは皮膚に強度を与え、エラスチンは弾力性をもたらします。年齢とともにこれらの産生量は減少し、それがしわやたるみの原因となります。
微弱電流がATP産生を高めることで、線維芽細胞の活動が活発になり、コラーゲンやエラスチンの産生が促される可能性が指摘されています。ある報告では、20日間の施術後にコラーゲン産生が14%、エラスチン産生が48%増加したというデータもあります。
また、血流やリンパの流れが改善することで、肌のくすみが取れ、むくみが軽減されるといった効果も期待されています。
ただし、美容分野での研究は医療分野と比較して厳密な臨床試験が少なく、効果の程度や持続期間についてはさらなる検証が必要です。
毛髪の成長への影響
毛髪の成長は、毛乳頭細胞という特殊な細胞の働きに大きく依存しています。毛乳頭細胞が活発に増殖し、適切なシグナルを発することで、毛髪は成長期(アナゲン期)に入り、太く長い毛が育ちます。
培養した毛乳頭細胞に微弱電流を与える実験では、細胞の増殖が促進されることが観察されています。また、細胞周期の分析では、増殖期にある細胞の割合が増加したことが報告されています。
細胞内のシグナル経路に関しては、PI3K/AKT/mTOR経路やWnt/β-カテニン経路といった、毛髪の成長に関わるとされる経路の活性化が確認されています。これらの経路は、毛乳頭細胞の増殖や毛周期の調節に重要な役割を果たしていると考えられています。
マウスを用いた実験では、微弱電流を与えた群で毛の再生が早まり、毛包の数も増加したという報告があります。ミノキシジルという育毛に使われる薬剤と比較しても、毛の出現が早かったとのことです。
炎症反応への働きかけ

慢性的な炎症は、多くの疾患の背景にあると考えられています。微弱電流が炎症反応にどのような影響を与えるかについても、研究が進められています。
マクロファージという免疫細胞は、炎症反応において中心的な役割を果たしています。細菌などの異物を感知すると、マクロファージは炎症性サイトカインと呼ばれるシグナル分子を放出し、炎症反応を引き起こします。
ニキビの原因菌であるアクネ菌に関連した炎症モデルを用いた研究では、微弱電流がTLR2/NF-κBというシグナル経路を抑制することで、炎症性サイトカインの産生を減少させる可能性が示されています。TLR2は細菌を認識する受容体であり、NF-κBは炎症反応を活性化する転写因子です。
動物実験では、アクネ菌を注射して炎症を起こしたマウスの皮膚に微弱電流を与えたところ、腫れや炎症細胞の浸潤が軽減され、炎症性サイトカインの発現も抑えられたと報告されています。
脂肪細胞と代謝への影響
肥満は現代社会における大きな健康課題の一つです。脂肪組織が過剰に蓄積すると、糖尿病や心血管疾患のリスクが高まります。
脂肪細胞の分化過程に微弱電流がどう影響するかを調べた研究があります。前駆脂肪細胞(まだ脂肪細胞になる前の細胞)に微弱電流を与えてから分化を誘導したところ、細胞内への脂肪の蓄積が抑制されたとのことです。
この効果は、インスリンシグナル経路の抑制と関連しているようです。インスリンは脂肪の蓄積を促進するホルモンですが、微弱電流はこの経路を抑えることで、脂肪細胞への分化を抑制する可能性があります。
また、Wnt/β-カテニン経路の活性化も観察されています。この経路は、脂肪細胞への分化を抑制する働きがあることで知られています。
肥満モデルマウスを用いた実験では、微弱電流を与えた群で腹部の脂肪組織の体積が減少し、血中の中性脂肪値も低下したという報告があります。
肝臓の脂肪蓄積への効果
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、お酒をほとんど飲まない人でも肝臓に脂肪が蓄積する状態を指します。放置すると肝炎、肝硬変、さらには肝臓がんへと進行することもあるため、早期の対策が重要です。
培養した肝細胞にオレイン酸(脂肪酸の一種)を与えて脂肪蓄積を誘導し、そこに微弱電流を与える実験が行われています。結果として、微弱電流を与えた細胞では脂肪の蓄積量が減少したことが観察されています。
このメカニズムとして、Sirt1/AMPKシグナル経路の活性化が関与していると考えられています。Sirt1は長寿遺伝子とも呼ばれるタンパク質で、AMPKとともに脂質代謝の調節に重要な役割を果たしています。
AMPKが活性化すると、脂肪の合成を促進する酵素であるACC(アセチルCoAカルボキシラーゼ)がリン酸化されて不活性化され、脂肪の合成が抑えられます。同時に、脂肪酸のβ酸化(脂肪を分解してエネルギーを取り出す過程)が促進されます。
また、PPARα-PGC1α複合体という、脂肪酸の酸化を促進する転写調節因子の活性化も確認されています。これらの複合的な作用により、肝臓での脂肪の蓄積が抑えられ、蓄積した脂肪の分解が促進される可能性があります。
筋肉の回復とスポーツへの応用

スポーツや運動後の筋肉の回復にも、微弱電流が応用されています。激しい運動の後には、筋肉に微細な損傷が生じ、これが遅発性筋痛(いわゆる筋肉痛)の原因となります。
マウスの実験では、損傷した骨格筋に微弱電流を与えることで、筋肉の再生が促進されることが報告されています[7]。具体的には、サテライト細胞と呼ばれる筋肉の幹細胞の数が増加し、筋線維の断面積の回復が早まったとのことです。
また、筋萎縮(使わないことで筋肉が痩せる状態)からの回復においても、微弱電流が効果を示す可能性があります。後肢を懸垂して筋萎縮を起こしたマウスに微弱電流を与えたところ、筋肉の再成長が促進されたという報告があります。
ヒトを対象とした研究[8]では、運動後に微弱電流を与えた群で、自律神経の指標において副交感神経優位の状態、つまり回復モードへの移行が早まったことが観察されています。
筋肉損傷のモデルを用いた二重盲検プラセボ対照試験[9]では、微弱電流を与えた群で、運動後の肘関節の角度変化(腫れによる影響)が小さかったという結果が得られています。
安全性と注意点
微弱電流療法は、一般的に安全性が高いとされています。使用する電流が非常に微弱であるため、感覚神経や運動神経を直接刺激することがなく、筋肉の収縮や不快な電気刺激感を引き起こしにくいのが特徴です。
ただし、すべての人に適しているわけではありません。ペースメーカーなどの埋め込み型医療機器を使用している方、てんかんの既往がある方、妊娠中の方、がんの治療中の方などは、使用を避けるべきとされています。
微弱電流療法は、あくまでも補完的な療法として位置づけられています。既存の医療に置き換わるものではなく、医師や医療専門家の指導のもとで適切に用いることが大切です。
まとめ
微弱電流療法の研究は、細胞培養や動物実験で多くの興味深い結果が得られていますが、ヒトを対象とした大規模な臨床試験はまだ十分とは言えません。効果の再現性や、最適な施術条件(電流の強さ、周波数、施術時間、施術間隔など)については、さらなる検証が必要です。
また、作用メカニズムについても、まだ完全には解明されていない部分が多くあります。細胞レベルでの変化が、どのようにして組織レベル、さらには全身レベルの効果につながるのかについて、より詳細な研究が求められています。
それでも、微弱電流療法が持つ可能性は大きいと言えるかもしれません。薬を使わない、侵襲性の低いアプローチとして、創傷治癒、疼痛管理、美容、代謝改善、筋肉回復など、幅広い分野での応用が期待されています。
私たちの体に備わっている「電気の言葉」をより深く理解し、それを活用することで、新たな治療の選択肢が広がっていく。そんな未来が、少しずつ形になりつつあるのかもしれません。
参考文献リスト
[1] Cheng N, et al. The effects of electric currents on ATP generation, protein synthesis, and membrane transport in rat skin. Clinical Orthopaedics and Related Research. 1982;171:264-272.
[2] Herzig S, Shaw RJ. AMPK: guardian of metabolism and mitochondrial homeostasis. Nature Reviews Molecular Cell Biology. 2018;19(2):121-135.
[3] Salminen A, et al. AMP-activated protein kinase inhibits NF-κB signaling and inflammation: impact on healthspan and lifespan. Journal of Molecular Medicine. 2011;89(7):667-676.
[4] Avendaño-Coy J, et al. Electrical microcurrent stimulation therapy for wound healing: A meta-analysis of randomized clinical trials. Journal of Tissue Viability. 2022;31(2):268-277.
[5] Iijima H, Takahashi M. Microcurrent therapy as a therapeutic modality for musculoskeletal pain: a systematic review accelerating the translation from clinical trials to patient care. Archives of Rehabilitation Research and Clinical Translation. 2021;3(3):100145.
[6] Kurz P, et al. Activation of healing and reduction of pain by single-use automated microcurrent electrical stimulation therapy in patients with hard-to-heal wounds. International Wound Journal. 2023;20(6):2053-2061.
[7] Fujiya H, et al. Microcurrent electrical neuromuscular stimulation facilitates regeneration of injured skeletal muscle in mice. Journal of Sports Science & Medicine. 2015;14(2):297-303.
[8] Piras A, et al. Effects of acute microcurrent electrical stimulation on muscle function and subsequent recovery strategy. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2021;18(9):4597.
[9] Lambert MI, et al. Electro-membrane microcurrent therapy reduces signs and symptoms of muscle damage. Medicine & Science in Sports & Exercise. 2002;34(4):602-607.


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