電気鍼がもたらす脳内の変化:fMRI研究から見える可能性

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それでは内容に入っていきましょう‼

鍼灸治療が実際にどのようなメカニズムで効果を発揮しているのかについては、まだ十分に解明されていない部分が多いのが現状です。

「本当に効くのか」「どうして効くのか」という疑問に対して、科学的な根拠を示すことは、鍼灸治療の信頼性を高め、より多くの方に適切な治療を届けるために重要な課題となっています。

そこで注目されているのが、機能的磁気共鳴画像法、いわゆるfMRI(エフエムアールアイ)という脳画像検査技術です。fMRIは、脳のどの部分が活動しているかを、リアルタイムで視覚化できる優れた技術です。この技術を使うことで、電気鍼が脳にどのような影響を与えているのかを、客観的に観察することができるようになりました。

本記事では、電気鍼の効果をfMRIで測定した臨床試験を系統的にレビューした研究論文をもとに、電気鍼治療が脳に及ぼす影響について、わかりやすくご紹介していきたいと思います。

目次

まずfMRIとは何か

まず、fMRIという技術について簡単にご説明しましょう。

fMRIは、脳の血流の変化を測定することで、脳のどの部分が活動しているかを画像化する技術です。脳の特定の部分が活発に働くと、その部分により多くの酸素が必要になり、血流が増加します。fMRIは、この血液中の酸素レベルの変化を捉えることで、脳の活動パターンを可視化するのです。

この技術の優れた点は、体に害を与えることなく(非侵襲的に)、放射線を使わずに、高い空間解像度で脳の活動を観察できることです[1]。

1990年代半ばから、鍼治療のメカニズムを解明するために、さまざまな画像診断技術が用いられるようになりました。PET(ペット)検査やSPECT(スペクト)検査なども使われてきましたが、fMRIは特に、鍼治療が脳に与える影響を研究する上で中心的な役割を果たすようになってきています[8]。

研究によって、鍼刺激に対する脳の反応は、単一の領域だけでなく、感覚を処理する領域だけでなく、感情や認知(考える働き)を処理する領域を含む広範なネットワークが関与していることが明らかになってきました[10]。

これは、東洋医学が伝統的に考えてきた「心と体は密接につながっている」という全体論的なアプローチと一致する発見であり、興味深いことです[11,12,13]。

研究方法

今回ご紹介する系統的レビューでは、2017年から2022年2月13日までに発表された、電気鍼の効果をfMRIで測定したランダム化比較試験(RCT)を対象としています。

研究チームは、PubMed、The Cochrane Library、Web of Science、Science Direct、Scieloといった複数のデータベースを徹底的に検索しました。「電気鍼」と「fMRI」というキーワードを組み合わせて検索し、過去5年間に発表されたランダム化比較試験に絞り込みました[14]。

ランダム化比較試験というのは、研究参加者をランダム(無作為)に治療群と対照群に分けて比較する、信頼性の高い研究デザインです。こうすることで、治療効果をより客観的に評価することができます。

研究の質を確保するため、3人の研究者が独立して論文のタイトルと要約を審査し、適切かどうかを判断しました。意見が分かれた場合は、全員が合意するまで議論を重ねたということです。最終的に、厳格な基準を満たした5つの研究が分析対象として選ばれました。

5つの研究が明らかにしたこと

選ばれた5つの研究は、手根管症候群、線維筋痛症、クローン病、過敏性腸症候群、そして肥満という、多様な疾患に対する電気鍼の効果を調べていました。それぞれの疾患について、興味深い発見がありましたので、順にご紹介していきましょう。

1. 手根管症候群:脳の配線を「つなぎ直す」

手根管症候群は、手首の神経が圧迫されることで、手のしびれや痛みが生じる疾患です。パソコン作業などで手首を酷使する方に多く見られます。

研究では、患部である手首の近くのツボに鍼をする「局所治療」と、足などの離れた場所のツボに鍼をする「遠隔治療」の両方が、神経生理学的な改善をもたらすことが示されました。興味深いのは、それぞれ異なる脳の可塑性(脳が環境に適応して変化する能力)のメカニズムが働いている可能性があるということです[18]。

つまり、局所治療と遠隔治療では、脳の「配線のつなぎ直し方」が異なる可能性があるのです。これは、鍼治療が単に症状を和らげるだけでなく、脳そのものの機能を変化させている可能性を示唆しています。

2. 線維筋痛症:痛みの回路を調整する

線維筋痛症は、全身に広がる慢性的な痛みを特徴とする疾患で、治療が難しいとされています。76名の患者さんを対象とした研究では、実際に皮膚に刺激が伝わる電気鍼を受けたグループと、刺激が伝わらない偽のレーザー鍼を受けたグループが比較されました[18]。

その結果、電気鍼を受けた患者さんたちは、偽治療を受けた方々と比べて、痛みの程度がより大きく減少しました。fMRIによる脳の画像解析では、電気鍼を受けたグループで、足の感覚を処理する脳の領域(一次体性感覚野のS1という部分)と、前部島皮質という領域の間のつながりが強まっていることが確認されました。

さらに興味深いことに、この脳のつながりの強化は、痛みの軽減と関連しており、同時に前部島皮質におけるGABA+(ギャバプラス)という神経伝達物質のレベルの増加とも関連していました[18]。GABAは脳の興奮を抑える働きがある物質で、痛みの制御にも重要な役割を果たしています。

この研究は、電気鍼が単に「気のせい」で効いているのではなく、実際に脳の神経回路と神経化学的なバランスを変化させることで、痛みを軽減している可能性を示しています。

3. クローン病:腸と脳のネットワークに働きかける

クローン病は、消化管に慢性的な炎症が起こる難治性の疾患です。この疾患に対する電気鍼の研究では、興味深い発見がありました。

電気鍼が、恒常性求心性処理ネットワーク(体の内部環境を一定に保つための情報を処理する脳のネットワーク)に影響を与え、腸の炎症を軽減する可能性があることが示されたのです[33]。

具体的には、ST25(天枢)、CV6(気海)、CV12(中脘)というツボへの電気鍼刺激が、島皮質や前部帯状皮質中部といった、体の内部感覚を処理する脳領域に影響を与えることがわかりました。これらの脳領域は、腸の状態を感知し、適切な反応を調整する役割を担っています。

この発見は、「腸と脳のつながり」として近年注目されている脳腸相関に、電気鍼が働きかけている可能性を示唆しています。クローン病のような炎症性腸疾患の治療において、脳のネットワークを調整することで症状を改善できる可能性は、新たな治療戦略を考える上で重要な知見といえるでしょう[59,60,61,62]。

4. 過敏性腸症候群:痛みを処理する脳の活動を静める

過敏性腸症候群は、腹痛や下痢、便秘などの症状が続く疾患で、ストレスとの関連も指摘されています。この疾患に対する電気鍼の研究では、前部帯状皮質という脳領域の活動が低下することが示されました。

前部帯状皮質は、痛みの感情的な側面を処理する重要な領域です。この領域の活動が低下するということは、痛みを「不快なもの」として感じる度合いが軽減される可能性を意味します。

つまり、電気鍼は痛みそのものだけでなく、痛みに対する感情的な反応も和らげることで、症状の緩和につながっている可能性があるのです。

5. 肥満:食欲と感情をコントロールする脳領域への影響

最後にご紹介するのは、肥満に対する電気鍼の研究です。この研究では、電気鍼が食事の抑制や感情の調整に関連する脳領域に影響を与えることが示されました。

具体的には、食べたいという欲求を抑える働きに関わる脳領域や、ストレスなどの感情に対応する脳領域の活動パターンが変化していることが観察されました。これは、電気鍼が単にカロリー消費を促進するだけでなく、食行動の心理的・神経的な側面にも働きかけている可能性を示唆しています。

肥満の治療においては、食欲のコントロールや、ストレスによる過食への対応が重要な課題となります。電気鍼がこうした脳の働きに影響を与えることができるなら、体重管理のための補助的な治療法として活用できる可能性があります。

研究の質

これらの研究は全体として、比較的良好な質を保っていると評価されています。ランダム化比較試験という信頼性の高い研究デザインが用いられ、fMRIという客観的な測定方法が使われている点は評価できます。

しかし同時に、いくつかの限界があることも認識しておく必要があります。

まず、今回のレビューで選ばれた研究は5つのみでした。この数は、電気鍼とfMRIを組み合わせた研究がまだ比較的新しい分野であることを反映しています。

より広範囲な結論を導くためには、今後さらに多くの研究が必要です。

さらに、電気鍼のプロトコル(鍼を刺す場所、刺激の強さ、頻度、治療期間など)は研究によって異なっており、どのような条件が最も効果的なのかについては、まだ明確な答えが出ていません。個々の疾患や患者さんの状態に応じた、最適な治療プロトコルを確立していくことが、今後の重要な課題といえるでしょう。

電気鍼が脳に働きかけるメカニズム:わかってきたこと

これまでご紹介してきた研究結果から、電気鍼が脳に働きかけるいくつかの共通するメカニズムが見えてきました。

脳の可塑性:神経回路の「つなぎ直し」

一つ目は、脳の可塑性への影響です。手根管症候群の研究が示したように、電気鍼は脳の神経回路を「つなぎ直す」働きがある可能性があります。慢性的な痛みや疾患によって変化してしまった脳の回路を、より健康な状態に近づけることができるかもしれないのです。

神経伝達物質のバランス調整

二つ目は、神経伝達物質のバランス調整です。線維筋痛症の研究で見られたGABA+の増加のように、電気鍼は脳内の化学的なバランスを変化させる可能性があります。GABAは神経の興奮を抑える働きがあり、痛みの軽減や不安の緩和に関与しています。

脳ネットワークの機能的結合の変化

三つ目は、脳の異なる領域間のつながり(機能的結合)の変化です。線維筋痛症の研究では、感覚を処理する領域と痛みの感情的側面を処理する領域のつながりが強まっていました。また、クローン病の研究では、腸の状態を感知する脳のネットワークに変化が見られました。

電気鍼は、こうした脳の複数の領域が協調して働くネットワークのバランスを調整することで、症状の改善につながっている可能性があります。

感情と認知の処理への影響

四つ目は、感情や認知(考える働き)を処理する脳領域への影響です。過敏性腸症候群や肥満の研究が示したように、電気鍼は痛みの感情的な側面や、食欲・ストレスといった複雑な心理的プロセスにも影響を与える可能性があります。

これは、東洋医学が伝統的に重視してきた「心身一如」、つまり心と体は分けられないという考え方と、現代の神経科学の知見が交わる興味深い領域といえるでしょう。

臨床への応用:期待と課題

これらの研究結果は、電気鍼治療の臨床応用に向けて、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。

個別化された治療の可能性

まず、疾患や患者さんの状態によって、異なる脳のメカニズムが働いている可能性が示されたことは重要です。これは将来的に、fMRIなどの脳画像検査を活用して、個々の患者さんに最適な治療法を選択できる可能性を示唆しています。

例えば、痛みを主訴とする患者さんでも、その痛みが主に感覚的な問題なのか、感情的な要素が強いのかによって、最適な治療アプローチが異なるかもしれません。脳の活動パターンを見ることで、より的確な治療計画を立てられる可能性があります。

他の治療法との組み合わせ

また、電気鍼が脳の複数のシステムに働きかけることがわかってきたことで、他の治療法との組み合わせについても、より科学的な根拠に基づいた検討ができるようになるかもしれません。

例えば、薬物療法と電気鍼を組み合わせる場合、それぞれが脳のどの部分に働きかけているのかを理解することで、相乗効果を最大化したり、副作用を最小化したりする戦略を立てられる可能性があります。

予防医学への応用

さらに、電気鍼が脳の可塑性を高め、神経ネットワークのバランスを改善する可能性があることは、治療だけでなく予防医学の分野での応用も考えられます。疾患が進行する前の段階で、脳の機能を最適化することで、病気の発症を予防したり、遅らせたりできる可能性があるかもしれません。

おわりに

電気鍼治療とfMRIを組み合わせた研究は、東洋医学と西洋医学、伝統と革新が出会う、とても興味深い分野です。

手根管症候群、線維筋痛症、クローン病、過敏性腸症候群、肥満という多様な疾患に対して、電気鍼が脳の異なる領域やネットワークに働きかけることで効果を発揮している可能性が示されました。これは、電気鍼が単一のメカニズムで作用するのではなく、疾患の特性に応じて、脳の様々なシステムを調整できる柔軟性を持っている可能性を示唆しています。

今後も、この分野の研究の進展を注意深く見守りながら、より良い医療の実現に向けて、共に努力していきたいものです。


参考文献

[1] Cai RL, Shen GM, Wang H, Guan YY. Brain functional connectivity network studies of acupuncture: a systematic review on resting-state fMRI. J Integr Med. 2018;16(1):26-33.

[8] Hui KK, Liu J, Kwong KK. Functional mapping of the human brain during acupuncture with magnetic resonance imaging somatosensory cortex activation. World Journal of Acupuncture-Moxibustion. 1997;7:44-49.

[9] Cho ZH, Chung SC, Jones JP, Park JB, Park HJ, Lee HJ, et al. New findings of the correlation between acupoints and corresponding brain cortices using functional MRI. Proc Natl Acad Sci USA. 1998;95(5):2670-2673.

[10] Huang W, Pach D, Napadow V, et al. Characterizing acupuncture stimuli using brain imaging with FMRI–a systematic review and meta-analysis of the literature. PLoS One. 2012;7(4):e32960.

[11] Fang J, Jin Z, Wang Y, et al. The salient characteristics of the central effects of acupuncture needling: limbic-paralimbic-neocortical network modulation. Hum Brain Mapp. 2009;30(4):1196-1206.

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[13] Dhond RP, Kettner N, Napadow V. Neuroimaging acupuncture effects in the human brain. J Altern Complement Med. 2007;13(6):603-616.

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