こんにちは!陣内です。
今回は「微弱電流に搬送周波数を使う意味って何だろう?」というところを考えてみます。
前回は干渉波の搬送周波数でした。

微弱電流を使うときまず見るのはμAだと思います。
50μAなのか。
100μAなのか。
500μAなのか。
私も基本的にはまずそこを見ていました。次に周波数ですね。
ただ治療器の設定をいろいろいじっているともう一つ気になる数字があります。
搬送周波数です。
今回の記事はうちでもよく使っているIM-2000と3DMENSで考えていきたいと思います。
IM-2000ではkHz帯の周波数が使われています。
3DMENSでもkHz帯の周波数が利用されています。
どちらも微弱電流なのになぜわざわざkHz帯を使うのでしょうか?
しかもこの2つは電気の作り方も違います。
IM-2000には定電圧方式を採用したIMモードがあります。
一方の3DMENSは複数の電極を使って立体的に微弱電流を流す方式です。
同じ「微弱電流」というカテゴリーに入っていますが中身を見ると結構違います。
そうなると「そもそも微弱電流でkHz帯の周波数を使うと何が変わるの?」というところが気になってきます。
今回はここを掘ってみます。
沼記事です。
「100μA」だけでは電気の中身は分からない

微弱電流について説明するとき「これは100μAです」と言えばなんとなく刺激の強さを説明できた気になります。
(はたして説明することがあるのでしょうかw私は患者さんには2度ほどありますwちなみに某メーカーの営業の方でした。)
でも100μAという数字が示しているのは電気刺激の一部分です。
周波数は一緒でしょうか?
100μAの直流。
100μAの矩形波。
100μAの正弦波。
全部100μAと表現できても同じ電気ではありません。
さらに搬送周波数はどうでしょうか?
1,000Hzなのか。
5,000Hzなのか。
8,000Hzなのか。
定電圧なのか。
定電流なのか。
電極は2個なのか4個なのか6個なのか。
さらに細かく見ればpeak電流なのか。
RMS(実効値)なのか。
平均電流なのか。
ここまで変わってくると「同じμAだから同じ刺激」とは考えにくくなります。
なので今回はいったんμAから少し離れて周波数と波形から微弱電流を見てみます。
まずIM-2000のkHz帯の周波数

IM-2000ではkHz帯の周波数が使われています。
ここで少し言葉を整理しておきます。
中周波治療器では「搬送周波数(carrier frequency)」という言葉がよく使われます。
ただしIM-2000の矩形波を考える場合干渉波などでいう搬送周波数とまったく同じ意味として扱うのは少し注意が必要です。
矩形波として見ればその波形が繰り返される基本周波数として考えることができます。
例えば1kHzなら、
1秒間に1,000周期。
5kHzなら、
1秒間に5,000周期。
周期にすると、
1kHz=1ms
5kHz=0.2ms=200μsです。
5kHzでは1kHzより短い周期で電圧変化が繰り返されることになります。
ではこれを身体に流したとき何が変わるのでしょうか?
皮膚を「抵抗」だけで考えると少し足りない

電気治療の話では皮膚抵抗(皮膚インピーダンス)という言葉をよく使います。
私も普通に使います。
ただ実際の皮膚や電極-皮膚界面は単純な抵抗器ではありません。
抵抗的な性質だけではなく容量的な性質も持っています。
コンデンサのような性質ですね。
そのため交流やパルスに対する電気的な妨げを考える場合には単純な抵抗Rだけではなく、
インピーダンスZ
として考える必要があります。ここで周波数が関係してきます。
理想的なコンデンサの容量性リアクタンスは、
Xc=1/2πfC
です。
fが周波数。
Cが静電容量です。
この式だけを見ると周波数が高くなるほど容量性リアクタンスは小さくなることが分かります。
例えばCが一定なら1kHzから5kHzになるとXcは1/5になります。
ただし人体のインピーダンスが1/5になるという意味ではありません。
1/5になるのはあくまで理想コンデンサの容量性リアクタンスを計算した場合です。
実際の皮膚-電極界面はもっと複雑です。
抵抗成分もありますし理想的なコンデンサそのものとして振る舞うわけでもありません。
さらに、
皮膚の水分量。
電極面積。
電極間距離。
接触状態。
電極材料。
などでも変わります。
なのでここで言えるのは、
周波数が変われば、電極-皮膚-組織系のインピーダンスも変化し得る。
まずはここまでです。
ここでIM-2000の「定電圧」が関係してくる

IM-2000のIMモードでは、
定電圧方式
が採用されています。
ここは「IM-2000という機械の通電方式がすべて定電圧」という意味ではありません。
IM-2000にはIMモードとMCRモードがあり、メーカーが定電圧方式と明記しているのはIMモードです。
では、定電圧だと何が面白いのでしょうか。
かなり単純化したモデルで考えると、
I=V/Z
という関係があります。
Vを一定とすると、
Zが高ければIは小さくなる。
Zが低ければIは大きくなる。
I: 電流 [A(アンペア)]V: 電圧 [V(ボルト)]Z: 抵抗[Ω(オーム:インピーダンス)
つまり負荷側のインピーダンスによって実際に流れる電流が変わる可能性があります。
ここに先ほどの周波数の話を重ねてみます。
周波数を変える。
↓
電極-皮膚-組織系のインピーダンスが変化する。
↓
定電圧であれば実際に流れる電流にも影響する。
こう考えることができます。
ただしこれはかなり単純化しています。
特に矩形波には後述する高調波成分も含まれるため単純に一つの周波数に対するZだけで全部を説明できるわけではありません。
それでも、
「周波数を変える=ただ波を速くしているだけ」
ではなさそうです。
ここは今回調べていて面白かったところです。
定電流だったらどうなる?

比較のために定電流も考えてみます。
定電流方式では、
設定したIを維持する
ように機器側が必要なVを調整します。
単純化すると、
V=IZ
です。
Zが変化した場合、
定電圧ならIが変化します。
一方、定電流ならIを維持するために必要なVが変化します。
つまり、
定電圧
Zが変化 → Iが変化
定電流
Zが変化 → 必要なVが変化
となります。
もちろん実際の治療器には出力限界がありますから理想的な定電圧源や定電流源として無制限に動作するわけではありません。
それでも微弱電流を見るとき、
「何μA?何Hz?」
だけではなく定電圧なのか定電流なのかなのかも大事です。
ちなみに日本で販売されている定電圧の微弱電流機器は少ないです。
IM-2000はさらに「矩形波」

ここでもう一つ。
IM-2000では矩形波が使われています。
これも結構重要です。
例えば、
5kHzの矩形波
と聞くと、5kHzという一つの周波数だけが身体へ入っているように感じます。
でも数学的にはそうではありません。
矩形波を考えるとき、もう一つ気になるのが周波数成分です。
例えば、50%dutyの理想的な対称矩形波を数学的にフーリエ解析すると、基本周波数だけではなく3倍、5倍、7倍……といった奇数次高調波を含みます。
ただし、これはあくまで理想的な対称矩形波の例です。
IM-2000の実際の出力波形がこの条件と同じという意味ではありません。単相波形ではDC成分も関係しますし、dutyや立ち上がり時間によって周波数成分も変化します。
ここで言いたいのは5kHz設定=5kHzという単一の矩形波成分だけが存在するわけではないということです。
もちろん実際の治療器から出てくる波形は、数学上の理想矩形波ではありません。
立ち上がり時間にも限界がありますし、出力回路や負荷の影響も受けます。
なので、
「5kHz設定だから25kHzの刺激まで強く入っている」
という話ではありません。
ただ、
矩形波は基本周波数だけで構成されているわけではない。
ここは頭に入れておいた方がよさそうです。
矩形波の「角」も気になる

矩形波にはもう一つ特徴があります。
電圧変化が急です。
理想的な容量モデルなら、コンデンサに流れる電流は、
Ic=C・dV/dt
で表すことができます。
つまり、
電圧が急激に変化するほど容量性電流も大きくなる
という関係があります。
もちろん皮膚-電極界面は単純なコンデンサではありません。
なのでこの式をそのまま人体に当てはめることはできません。
ただ、電極-皮膚界面にも容量的な成分がある以上、
矩形波の立ち上がりがどのくらい速いのか
は気になります。
同じ5kHzでも、
理想的な矩形波。
角が少し丸くなった矩形波。
かなり立ち上がりの遅い矩形波。
では、高周波成分もdV/dtも違ってきます。
ここまで来ると実機をオシロスコープで見たくなりますね(笑)
私は見ているので気になる方は両方買っちゃいましょうw
では3DMENSは?
ここから3DMENSです。
3DMENSも微弱電流ですがIM-2000とは電気の作り方がかなり違います。
伊藤超短波では3DMENSを「立体的な微弱電流」として説明しています。
基本となる通電方式は3対・6電極です。
ここは「3極」と書くより「3対・6電極」とした方が分かりやすいと思います。
立体動態波についてメーカー資料を見ると3対の異なる高い周波数の電流を6点の電極から流し、生体内部で3次元的に干渉させるという説明がされています。
そして3DMENSは、その立体的な通電方式を微弱電流領域で利用するモードとして説明されています。
つまりIM-2000のIMモードと3DMENSでは同じ「微弱電流」と呼ばれていても、かなり違う考え方で電気を入力していることになります。
3DMENSにはもう一つ「AMF」がある

ここまで搬送周波数について書いてきました。
ただ3DMENSを考えるなら、もう一つ外せない周波数があります。
AMF(Amplitude Modulated Frequency:振幅変調周波数)
です。
ここは搬送周波数とは分けて考えた方がよさそうです。
例えば干渉電流を単純化して5,000Hzと5,100Hzという2つの正弦波を重ねたとします。
周波数差は、
5,100-5,000=100Hz
です。
周波数の少し異なる2つの正弦波が重なると強め合うタイミングと弱め合うタイミングが周期的に現れます。
その結果、合成された波の振幅が周期的に変化します。
この振幅変化を臨床的にはAMF(Amplitude Modulated Frequency:振幅変調周波数)として扱います。
この例なら、
AMF=100Hz
です。
つまり、搬送周波数とAMFは同じものではありません。
搬送周波数は、身体へ入力されるkHz帯の高い周波数。
AMFは、それらが干渉することで生じる振幅変化の周波数です。
ここが3DMENSを考えるうえで面白いところです。
「何kHz?」だけでは3DMENSを説明できない

そうなると3DMENSでは「搬送周波数が何kHzなのか?」だけを見ても足りません。
少なくとも、
- 搬送周波数
- 各電流間の周波数差
- AMF
- 3対それぞれの周波数
- AMFが固定なのか変化するのか
- 搬送周波数自体がスウィープするのか
- 出力電流
- 6電極の配置
まで考える必要があります。
例えば同じ5kHz付近の搬送周波数を使っていたとしても、
AMFが1Hzなのか。
10Hzなのか。
100Hzなのか。
あるいは時間とともに変化するのか。
これでは刺激の時間構造がかなり違います。
つまり3DMENSでは「kHz帯の微弱電流」というだけでは電気刺激を十分に説明できません。
ではAMFには何の意味があるのか?
ここで新しい疑問が出てきます。
「微弱電流でAMFを変えると何が変わるの?」
です。
通常の干渉電流ではAMFを低周波刺激に相当する振幅変化として考えます。
例えば100Hz前後のAMFであれば、振幅が1秒間に100回の周期で変化することになります。
ただし3DMENSはμAレベルです。
通常の干渉電流のように、
神経を脱分極させる
筋収縮を起こす
ことを主目的としているわけではありません。
メーカーも3DMENSについて、極めて弱い電流のため、ほとんど刺激がなく神経や筋を興奮させないと説明しています。
そうなると私は「神経を100Hzで刺激するためのAMF」と単純に考えていいのか疑問が残ります。
ここはかなり面白いところです。
搬送周波数によって経皮的な電気入力条件が変わる。
複数の周波数によって振幅変調が生じる。
さらに3対・6電極によって空間的な電場分布も変化する。
では、
μAレベルの3DMENSにおいてAMFを変えることが、組織内の電場・電流密度、あるいは細胞応答にどのような違いを生むのか?
ここは、通常の干渉波のAMF研究をそのまま当てはめるのではなく、別に考えた方がよさそうです。
3DMENSは「3つの周波数」を考えた方がいいかもしれない
ここまで考えると、3DMENSを見るときは単純に、
「何μAなのか?」
だけでは足りません。
さらに、
「搬送周波数は何kHzなのか?」
だけでも足りません。
少なくとも、
① 電流強度
② 搬送周波数
③ AMF(振幅変調周波数)
を分けて見た方がよさそうです。
さらに実際には、
波形。
3対の周波数構成。
位相関係。
周波数スウィープ。
6電極の配置。
まで入ってきます。
こう考えると、
「3DMENS=微弱電流」
という一言では、かなりの情報が抜け落ちていることになります。
3DMENSで気になるのは「3対・6電極」
個人的に3DMENSで一番気になるのはここです。
単純な2極通電なら、電極Aと電極Bの間に電位差が生じ、その条件に応じた電流分布が形成されます。
では3対・6電極だったらどうなるのでしょうか?6個の導子があるから単純に6方向へ電流が流れる。
という話ではないでしょう。
逆に3対だから身体の中心一点に電流が集まると考えるのも単純すぎます。
身体は均一な導体ではありません。
皮下脂肪。
筋。
血液。
骨。
それぞれ電気的な性質が違います。
さらに電極位置や電極間距離、身体形状によっても電場分布は変わります。
そのため現時点では3対・6電極によって、一般的な2極通電とは異なる空間的な電場・電流分布を作る方式くらいに考えています。
ただ、ここから先が知りたいんですよね。
3対それぞれは具体的に何Hzなのか。
周波数差はどう設定されているのか。
位相関係はどうなっているのか。
搬送周波数は時間的にどう変化しているのか。
各電極対の出力はどのように制御されているのか。
ここまで分からないと、
「身体の中をどう流れているのか」
を具体的に描くのは難しそうです。
kHz帯の周波数を変えると何が違う?

ここでも先ほどのインピーダンスの話が出てきます。
理想コンデンサの容量性リアクタンスはXc=1/2πfCです。
したがって周波数が違えば、容量性リアクタンスも違います。
実際の皮膚-電極-組織系はもっと複雑ですが周波数によって経皮的な電気入力条件が変わり得るというところまでは考えることができます。
ただ、ここから、
「周波数が高い方が深く届く」
とはまだ言えません。
まして、
「周波数が高い方が組織修復に優れている」
とも言えません。
ここは分けた方がいいと思います。
周波数によってインピーダンスなどの電気的条件が変化する。
これは電気物理学の話です。
その電気刺激によって細胞がどう反応するのか。
これは生物学の話。
ではkHzの電気そのものに生物学的な意味はある?
ここで一つ面白い研究があります。
2025年にNature Communicationsに掲載されたOpančarらの研究です。
この研究ではヒトの末梢神経に対して500〜12,500HzのkHz刺激を行い変調した刺激と変調していない正弦波などで神経が興奮する閾値を比較しています。
結果を見ると刺激閾値はcarrier frequencyによって大きく変化し異なる刺激波形でもcarrier frequencyに対するstrength-frequency relationshipはよく似ていました。運動神経では、変調の有無による刺激閾値の有意差も認められていません。
ではなぜkHz帯の正弦波そのものでも神経が興奮するのでしょうか。
著者らが一つの機序として示しているのが、神経膜のrectification(整流)です。
モデル上では、対称的なkHz正弦波であってもNa⁺とK⁺の膜を介した応答が完全には相殺されず、正味の脱分極が生じます。それが繰り返されることで、脱分極が時間的に加算されていくと考えられています。
これを見ると、
「kHz帯を使う意味=皮膚インピーダンスを変えるため」
だけで終わらせるのも少し早いのかもしれません。
ただし、ここはかなり注意が必要です。
この研究で扱われているのは、末梢神経を興奮させるsuprathreshold stimulationです。
今回の記事で考えているIM-2000や3DMENSのようなμA領域の微弱電流で、同じ膜整流がどの程度起きるのか、さらにそれが組織修復などの作用に関係するのかは、この研究からは分かりません。
なので、
「kHzだから微弱電流の治療効果が高くなる」
とは言えません。
ただ、
kHz帯の周波数は経皮的な電気入力条件を変えるだけなのか。
それとも、
刺激を受ける側の膜応答にも何らかの意味を持つのか。
ここは微弱電流でもまだ掘る余地がありそうです。
そして実際に患者さんの治療成績が変わるのか。
これは臨床の話です。
この3つを一気につないでしまうと、
「理論的にはあり得る」
が、
いつの間にか、
「臨床的に効果がある」
へ変わってしまいます。
ここは分けて考えたいところです。
「高い周波数だから深く届く」はどう考える?

今回調べていてここも引っかかりました。
中周波について調べると、
「周波数を高くすると皮膚インピーダンスが低下するため、深部まで電気が届きやすい」
という説明をよく見ます。
前半部分は理解できます。
皮膚-電極系には容量性成分があるため、周波数によってインピーダンスは変化します。
でも、
皮膚で電気を入力しやすくなること
と
狙った深部組織へ選択的に電流が集まること
は別の話です。
電流分布には、
- 電極面積
- 電極間距離
- 電極配置
- 皮下脂肪厚
- 筋の位置
- 骨
- 組織導電率
- 身体形状
なども関係します。
メーカー資料では3DMENSについて、従来のMCRより深い部位への治療が可能という説明もされています。
では、
ここでいう「深い」とは電気物理学的に何を意味しているのでしょうか?
これは個人的にかなり知りたいところです。
電場分布なのか。
電流密度なのか。
6電極による空間的な電流分布なのか。
それとも別の評価なのか。
少なくとも「周波数が高い=そのまま深く届く」とだけ説明するのは、少し単純すぎる気がします。
IM-2000と3DMENSを並べてみると面白い

ここまで見てくると、
微弱電流というカテゴリー自体がかなり広い
ことが分かります。
IM-2000には定電圧方式を採用したIMモードがあります。
さらに矩形波が使われています。
一方の3DMENSは3対・6電極を利用して立体的に微弱電流を入力する方式です。
同じ「微弱電流」でも同じ電気を違う機械から出しているわけではありません。
むしろ異なる電気刺激をどちらも微弱電流というカテゴリーで扱っていると考えた方がよさそうです。
そうなると過去の微弱電流研究も気になってくる
ここで別の疑問が出てきます。
例えば「微弱電流でATP産生が増加した」という研究があったとします。
その研究で100μAが使われていた。
では自分の治療器を100μAに設定すれば、同じ反応が起こるのでしょうか?これはそのままでは言えません。
その研究ではどんな波形だったのか。
何Hzだったのか。
直流なのか交流なのか。
定電圧なのか定電流なのか。
peakなのかRMSなのか。
duty cycleは?
電極面積は?
電極間距離は?
通電時間は?
電流密度は?
1相あたりの電荷量は?
ここまで見ないと、本当は同じ刺激条件なのか分かりません。
実際、治療器の仕様を見るとpeak電流とRMSが別々に記載されていることがあります。
つまり、
「100μA」という数字だけでも、それが何を表している100μAなのか確認する必要があります。
そう考えると論文から「100μA」という数字だけを取り出して、自分が使っている治療器へそのまま当てはめる
のはかなり難しい。
これは微弱電流の論文を読むときに、かなり大事なところかもしれません。
では中周波領域の微弱電流にはどんな意味があるのか?
ここまで調べてくると、
「じゃあ結局、微弱電流にkHz帯を使うことには何の意味があるの?」
という最初の疑問に戻ってきます。
私も最初は、
「5kHzにはこういう作用がある」
みたいな答えが出てくると思っていました。
でも、どうもそんなに単純ではなさそうです。
ここからは研究で直接確認された作用機序ではなくここまで見てきた電気的な特徴から、
「もし中周波領域を使うことに意味があるとしたら?」
という仮説を考えてみます。
IM-2000はなぜDCに近い波形にkHz帯を使うのか?
ここでIM-2000に戻ります。
IMモードについて考えていて、個人的に一番面白いのがここです。
IM-2000は定電圧+単相矩形波+kHz帯という組み合わせになっています。
さらに波形としてはDCに近い状態を作ることを狙った設計になっています。(おそらくですw)
実際、私もIM-2000の出力をオシロスコープで確認しましたが、単相でありながら1〜5kHzの設定に対応した周期的な変化を持つ波形を確認しています。
ここで疑問が出てきます。
DCに近い状態を作りたいのであればなぜわざわざ1〜5kHzという周波数を持たせるのでしょうか?
完全なDCであれば0Hzです。
一方、IM-2000ではDCに近い性質を持たせながらkHz帯の周期的な電圧変化も存在しています。
ここまで記事を書いてきた流れで考えると私はこのkHz帯の意味が、
電極-皮膚界面を含めた経皮的な電気入力
にあるのではないかと考えています。
もちろん、ここからは仮説です。
先ほど見たように、電極-皮膚-組織系には抵抗成分だけではなく容量成分があります。
理想コンデンサなら、
Xc=1/2πfC
です。
つまり周波数が上がれば容量性リアクタンスは小さくなります。
実際の人体はもっと複雑なので、
「5kHzだから皮膚インピーダンスが1kHzの1/5になる」
という意味ではありません。
ただDCに近い電気的性質を持たせながら、kHz帯の周期的変化を加えることで、完全なDCとは異なる経皮的な入力条件を作っている可能性は考えられます。
しかもIMモードは定電圧です。
単純化すると、
I=V/Z
なので周波数によって負荷側のインピーダンスが変われば実際に流れる電流にも影響する可能性があります。
そう考えるとIM-2000の1〜5kHzは、
「5kHzそのものに特別な生物学的作用がある」
というより、
DCに近い単相波形を、皮膚を介してどのように身体へ入力するのか
というところに意味があるのかもしれません。
ここはかなり面白いです。
完全なDCとも違う。
一般的な低周波のパルス刺激とも違う。
そして3DMENSのような交流による干渉・AMFとも違う。
DCに近い性質を持った単相波形に、なぜkHz帯の周期的変化を持たせているのか。
今のところ私は、
DC的な電気的環境と、中周波領域による経皮的な入力条件を組み合わせるためではないか
と考えています。
ただし、これはIM-2000の臨床効果を説明するものではありません。
また、
「kHz帯にしたから組織修復が高まる」
とも言えません。
あくまで実際の波形と電気的性質から考えた仮説です。
この仮説をもう少し確かめるなら、
1〜5kHzで負荷インピーダンスがどう変わるのか。
それに伴って実電流がどう変化するのか。
純抵抗負荷と皮膚を模したRC負荷では波形がどう変わるのか。
この辺りを実測してみたいところです。
ここまで来ると、オシロスコープで見た次は負荷を変えながら測りたくなってきますね(笑)
では3DMENSでは?
一方、3DMENSではさらに話が複雑になります。
3DMENSには、
搬送周波数だけではなくAMF(Amplitude Modulated Frequency:振幅変調周波数)
があります。
ここは重要です。
例えば単純化して5,000Hzと5,100Hzの電流を考えると、周波数差は100Hzです。
この場合、合成された波形では振幅が100Hzで変化します。
つまり、
kHz帯の細かな電流変化
の上に、
AMFによる、もう一段大きな時間スケールの振幅変化
が重なっていることになります。
ただし、
「100Hzの電流が身体の中に新しく発生する」
という意味ではありません。
※5,000Hzと5,100HzはAMFの考え方を説明するための単純化した例であり、3DMENS内部の実際の周波数構成を示したものではありません。
あくまで合成波形の振幅が100Hzで変化している、と考えます。
そして3DMENSには、
3対・6電極
という要素まであります。
そうなると3DMENSでは、
搬送周波数
↓
AMFによる時間的な振幅変化
↓
3対・6電極による空間的な電場・電流分布
まで考える必要があります。
IM-2000とは、かなり違います。
IM-2000と3DMENSを並べると見えてくるもの
ここで2つを並べてみます。
IM-2000のIMモードでは、
定電圧+矩形波+kHz帯
によって、
実際に流れる電流や、電荷を与える時間構造
が変化する可能性があります。
一方の3DMENSでは、
搬送周波数+AMF+3対・6電極
によって、
電気刺激の時間構造に加えて、空間的な電場・電流分布
まで変化する可能性があります。
もちろん、
IM-2000=時間
3DMENS=空間
と単純に分けられるわけではありません。
ただ、今回注目している特徴を整理すると、こういう違いが見えてきます。
そして両方に共通しているのは、
「μAだけでは刺激を説明できない」
ということです。
中周波微弱電流を一度仮説化してみる
ここまでをつなげて考えてみます。
もし中周波領域の微弱電流に意味があるとしたら、
「kHzそのものに特殊な治癒作用がある」
というより、
微弱な電荷を、どのような時間構造・空間構造で組織へ与えるのかを変えている
と考えると、個人的にはかなりしっくりきます。
例えば、
中周波化によって経皮的な電気入力条件が変わる
↓
1相あたりの電荷量や、その繰り返し方が変わる
↓
波形によって電圧・電流の時間変化も変わる
↓
AMFがあれば、さらに振幅の時間構造が加わる
↓
多電極であれば、空間的な電場・電流分布も変わる
というイメージです。
つまり、
中周波微弱電流=「微弱な電荷を、どう時間的・空間的に組織へ与えるかを設計した刺激」
と考えることができるのかもしれません。
ただし、ここから、
「だから組織修復が高まる」
とはまだ言えません。
ここまでは主に電気物理学から考えた仮説です。
その電気刺激によって細胞がどう反応するのかは生物学の話。
そして実際の患者さんで治療成績が変わるのかは臨床の話です。
この3つは分ける必要があります。
むしろ次に知りたいのは、
同じ電流強度・同じ通電時間で、低周波と中周波を比較したらどうなるのか。
総電荷量を揃えて、周波数だけを変えたらどうなるのか。
搬送周波数を揃えて、AMFだけを変えたらどうなるのか。
2極と3対・6電極では、組織内の電場・電流密度がどう変わるのか。
この辺りです。
ここまで分かってくると、
「なぜ微弱電流にkHz帯を使うのか?」
という今回の疑問に、もう少し近づける気がします。
最後に残った疑問
今回調べていて、結局一番知りたくなったのは「実際にはどう流れているの?」でした。
IM-2000なら同じ出力設定で周波数を変えたとき実電流はどう変化するのか。
純抵抗負荷と、皮膚を模したRC負荷ではどう違うのか。
実際の矩形波はどんな形なのか。
立ち上がり時間はどのくらいなのか。
peakとRMSはどう変化するのか。
3DMENSなら、
3対それぞれは具体的に何Hzなのか。
周波数差はどう設定されているのか。
位相関係は?
各対の出力制御は?
そして、
6個の電極によって実際にどのような電場・電流分布が作られているのか。
ここまで分かると、
「kHz帯を使った微弱電流」というものがもう少し具体的に見えてきそうです。
まとめ
微弱電流というと、
「何μA流すのか?」
に目が行きます。
波形。
周波数。
定電圧なのか定電流なのか。
peakなのかRMSなのか。
電極配置。
電極面積。
電極間距離。
同じ微弱電流でも、条件はかなり違います。
なので「微弱電流にはこういう作用がある」と一括りにする前に、その研究、その治療器では、実際にどんな電気を流しているのか?
を見る必要がありそうです。
そして電気的に説明できること。
生物学的に確認されていること。
臨床的に効果が確認されていること。
ここも分けて考えたいところです。
今回の話だけから、
「5kHzだから治りやすい」
とか、
「8kHzだから深部に効く」
とは言えません。
でも「微弱電流なのに、なぜわざわざkHz帯を使うの?」という疑問から掘っていくとインピーダンス。
定電圧・定電流。
矩形波。
peakとRMS。
そして多電極による電場分布。
微弱電流ってだいぶややこしいですね(笑)大好きですけど
でも、この辺をちゃんと見ていくと、
「微弱電流は何μAがいいのか?」
という話だけではなく、
「そもそも身体にどんな電気を入れているのか?」
というところから考え直す必要がありそうです。
参考文献・資料
機器仕様・3DMENSについて
- 伊藤超短波株式会社.イトー IM-2000 製品情報・製品カタログ.
IM-2000のIMモード、MCRモード、出力方式、出力電流・電圧などの確認に使用。
伊藤超短波「IM-2000」製品資料 - 伊藤超短波株式会社.イトー ES-5000 製品カタログ.
立体動態波および3DMENSの通電方式、6点の電極、3対の中周波電流による立体的な通電について参照。
伊藤超短波「取扱説明書・カタログ」
kHz帯電気刺激・搬送周波数について
- Ward AR. Electrical stimulation using kilohertz-frequency alternating current. Phys Ther. 2009;89(2):181-190. doi:10.2522/ptj.20080060.
kHz帯交流、搬送周波数、干渉電流、皮膚インピーダンスなどを考えるうえでの基本文献。特に「高い周波数=単純に深く届く」という従来の説明を考え直すうえでも参考になる。 - Vaz MA, et al. Low-Frequency Pulsed Current Versus Kilohertz-Frequency Alternating Current: A Scoping Literature Review. Arch Phys Med Rehabil. 2018;99(4):792-805. doi:10.1016/j.apmr.2017.12.001.
低周波パルス電流とkHz帯交流を比較したレビュー。kHz帯だから一律に筋力発揮や快適性で優れるとは言えないことを考える際に参考になる。 - Iijima H, Takahashi M, Tashiro Y, Aoyama T. Comparison of the effects of kilohertz- and low-frequency electric stimulations: A systematic review with meta-analysis. PLoS One. 2018;13(4). doi:10.1371/journal.pone.0195236.
kHz帯交流と低周波パルス電流を比較したシステマティックレビュー・メタ解析。kHz帯交流は理論上、皮膚インピーダンスとの関係が議論される一方、筋トルクや不快感について明確な優位性は確認されていない。
皮膚-電極インピーダンスについて
- Yamamoto Y, et al. Skin Impedance Estimation System for Voltage-mode Electrical Stimulator with an AC Bridge Circuit.
電圧制御型電気刺激と皮膚インピーダンスとの関係、および皮膚-電極インピーダンスの抵抗・容量成分を考える際の参考資料。 - Simatupang JW, Wijaya W, Tyler D, Mavridis C. Simulation analysis of equivalent circuit model of skin-electrode impedance for transcutaneous electrical stimulation. Bull Electr Eng Inform. 2021;10(4). doi:10.11591/eei.v10i4.3080.
皮膚-電極界面を単純な抵抗だけではなく、抵抗成分と容量成分を含む等価回路として考える際の参考文献。


コメント