ドライアイ症候群に対する鍼治療のレビュー:作用機序、有効性、および臨床的意義を読んで

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こんにちは!

陣内です。

今回も論文をご紹介していきたいと思います。

いつもながら私は研究者でも教育者でもないので生温かく見守っていただければ幸いです。

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今回はA Review of Acupuncture for the Treatment of Dry Eye Syndrome: Mechanisms, Efficacy, and Clinical Implications(PMCID: PMC12379998)をご紹介していきたいと思います。

ただ妄信的にみるのではなく参考程度にみていただければ幸いです。

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目次

論文の概要

この論文は、ドライアイ症候群(Dry Eye Disease:DED)に対して、鍼灸(特に経穴刺鍼・電気鍼など)を用いた治療のメカニズム・効果・臨床への示唆を整理した「レビュー論文」です。
つまり、「既存研究を整理して、鍼灸がドライアイに対してどのように作用し得るか」「安全性はどうか」「臨床的にはどんな応用が考えられるか」をまとめたものです。
鍼灸師としては、「目の違和感・乾き・疲れ目」などを扱う際に、このような鍼灸研究の整理は実践を裏付ける材料になり得ます。


なぜ“ドライアイ × 鍼灸”を考えるのか?

まず、ドライアイの背景を整理します。

  • ドライアイは、「涙液・涙膜の不安定」「眼表面の乾燥」「異物感・視界のかすみ・疲れ目」などを訴える多因子性の眼疾患です。
  • 現代では、スマホ・PC使用増加、エアコンなどの乾燥環境、コンタクトレンズ装用などが背景にあり、鍼灸の対象になり得る「目の使い過ぎ/環境ストレス」型のドライアイが増えています。
  • 一方で、既存の主流治療(人工涙液、点眼、防腐剤フリー涙液、環境調整など)では「根本改善」までは至らないケースも多く、「補完的・代替的治療として鍼灸は可能性がある」と期待されています。
  • 鍼灸師視点では、「目だけにアプローチ」ではなく、全身の気血・自律神経・頭頸部血流・眼周囲の機能変化なども視野に入れたケアが考えられます。

こうした背景から、本レビューでは「鍼灸がドライアイに対してどのような作用機序をもち、どれだけ効果が期待でき、安全なのか」という視点が整理されています。


鍼灸がドライアイに作用し得るメカニズム

レビュー論文では、鍼灸によるドライアイ改善の可能性を、以下のような角度から整理しています。

  1. 涙の分泌促進・涙液の質改善
    鍼刺激により、涙腺機能の活性化や涙の供給が改善されうるという報告があります。レビュー中でも「鍼を受けた群で涙分泌量が上がった」「涙膜破壊時間が延びた」などの所見が挙げられています。
  2. 眼表面の炎症軽減・血流改善
    ドライアイには微小な炎症反応、上皮破壊、涙液‐脂質層の不安定などが関与します。鍼灸が局所の血流を改善し、炎症性サイトカインを抑え、角結膜上皮の回復を促す可能性が示唆されています。
  3. 自律神経・知覚神経調整
    涙液分泌やまばたき・涙液蒸発などは自律神経・知覚神経の働きに関わっています。鍼刺激が副交感神経活動を促進/交感神経過剰を抑えることで、目の乾燥感や疲れ目の軽減につながるという仮説があります。
  4. 全身調整的アプローチ
    鍼灸では、目の周辺だけでなく、頭頸部・肩・首・手足の経穴を使って全身のバランスを整えることが多いです。レビュー中でも、腎・肝・脾という中医学的な視点から「体の気血・津液の循環改善」が、眼表面の乾燥改善につながるという見解が述べられています。

以上のように、鍼灸は「涙を増やす/涙を保つ」「血流・神経・炎症に働きかける」「全身状態を整える」という多角的な作用が期待できるというわけです。


臨床研究・エビデンスの現状

レビューでは、現時点で鍼灸によるドライアイ改善を調べた臨床研究がいくつか報告されており、次のような傾向が見られます。

  • 鍼灸を受けたドライアイ患者で、「主観的な乾き・異物感・疲れ目・視界のかすみ」の改善が報告されています。
  • 涙液定量(シルマー試験)や涙膜破壊時間(BUT/NIBUT)など、客観的指標の改善を報告したものも少数ながら存在します。
  • 安全性については、「刺鍼時の軽度出血・一時的な刺激感・めまい・鍼による不快感」などが報告される程度で、重大な副作用報告は少ないという整理です。
  • ただし、レビュー中で著者らも指摘しているように、研究数・サンプル数・追跡期間・統一された鍼灸プロトコルという点では限界があり、「まだ鍼灸がドライアイに対して確立された第一選択治療とまでは言えない」という慎重な立場が示されています。

鍼灸師の現場としては、「鍼灸で目の乾き症状に対応できそうだ」「でも、まだ鍼灸だけで完結するというエビデンスまでは十分ではない」という認識が妥当かと思います。


実践ポイント

では、現場で鍼灸師として「どう活かすか」「どんな留意点があるか」を整理します。

前提確認

  • 乾き・疲れ目・異物感・視界のかすみなど「ドライアイっぽい訴え」を持つ方が対象になりますが、まずは 眼科的疾患の有無/角膜損傷・結膜炎・感染・涙道閉塞などの有無を確認できると安心です。
  • 鍼灸としては「軽度〜中等度のドライアイ」感覚の患者さん、例えば「長時間画面を見ている/エアコン使用が多い/コンタクト使用者」などを候補にすると現実的です。
  • 鍼灸だけでなく、生活環境(湿度・まばたき回数・画面からの距離・休憩)・眼科連携・涙液補充などを併用する姿勢が望ましいです。

鍼灸アプローチ設計

  • 経穴選定:レビュー中では、目の周囲の経穴(例:BL1 「睛明」、BL2 「攅竹」、ST1 「承泣」など)+全身点(LI4 「合谷」、ST36 「足三里」など)が紹介されています。(PubMed)
  • 刺鍼手技および通電:レビューでは電気鍼(electroacupuncture)を用いた報告もあり、神経調整・血流改善に貢献する可能性があるとされています。通電の周波数・強さには工夫が要されるとされています。
  • 治療頻度・継続:短期間(1回だけ・1〜2回)では効果を実感しづらい可能性があるため、ある程度の継続(例:週1〜2回×数週間)を前提にプラン設計するのが望ましいです。
  • 安全管理:目の周囲刺鍼では、角膜・結膜・眼球運動・視力変化などのリスクを常に意識し、異常が出たら速やかに眼科紹介できる体制を整えておくことが重要です。

患者への説明・同意

  • 「鍼灸は補完治療です。まずは眼科で検査・診断を受けてから併用するのが安心です」などの説明を入れておくと、患者さんの安心感が増します。
  • 「この分野の鍼灸研究は増えていますが、まだ決定的なエビデンスではありません。しかし、症状改善の可能性があり、安全性も高い報告が多いです」など、現状の正直な立ち位置を伝えることも信頼構築に役立ちます.
  • また、治療にあたって「目の乾きがどう変化するか」「まばたき回数・画面使用時間・休憩頻度」などを記録しておくと、変化を可視化でき、鍼灸師‐患者双方にとって重要なデータになります。

実践上のヒント

  • 目周辺の血流促進を意識して、鍼後に蒸気アイマスクや温湿布を併用するという設計も考えられます。
  • 画面作業の多い患者には、休憩時に「目を閉じて遠くを見る」「まばたきを意識する」などの指導も加えると、鍼灸効果+セルフケアとして相乗効果が出やすいです。
  • 鍼灸治療後に「まばたき回数が増えた」「目のゴロゴロ感が減った」「夜寝る前の目の重さが改善した」などを患者さんと一緒に振り返ると、治療効果が実感されやすくなります。
  • 継続的なチェックとして、3〜4回を一区切りとし「変化がない/悪化している」時には別のアプローチ(眼科紹介・サプリメント相談・専門医受診)も検討しましょう。

臨床応用におけるまとめ

このレビュー論文から、鍼灸師として押さえておくべきポイントを整理します。

  • 鍼灸は、ドライアイ症状(乾き・異物感・疲れ目・視界かすみ)に対して“補完的治療”として有望な手段であり、涙の分泌促進・炎症軽減・神経調整というメカニズムが示唆されています。
  • ただし、鍼灸だけで全てを解決できるという段階ではなく、眼科的診断・既存治療・生活環境指導との併用が現実的です。
  • 実践設計としては、目周囲+全身の経穴を組み、通電鍼を用いることも検討価値あり。頻度・期間をある程度確保することが望ましいです。
  • 患者選び・安全管理・効果モニタリング・患者説明をしっかり行うことで、鍼灸師‐患者ともに治療を安心して進められます。
  • 今後、より大規模・厳密な臨床試験が増えることで、鍼灸のドライアイ対応領域がさらに確立されていく可能性があります。

おわりに

ドライアイは、「目が乾く」「疲れる」「異物感がある」という訴えがとても身近で、患者さんにとってもつらいものです。鍼灸師としてこの分野にアプローチできる可能性があるというのは、とても励みになります。

この論文レビューは、鍼灸師が目のケアを考える際に「なぜ鍼が効くか」「どう設計すればいいか」「今は何ができるか」を整理する良い機会です。
ぜひ、実践においても「目の乾きケアのひとつの選択肢として鍼灸を活用する」姿勢を持ってみてください。もちろん、安全第一・眼科連携第一が重要です。

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