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こんにちは!
陣内です。
今回も論文をもとに記事を書いていきたいと思います。
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今回は最近注目を集めているTECAR療法(ラジオ波)について、セラピストの皆さんに分かりやすく解説していきたいと思います。
はじめに

リハビリテーション分野では、日々新しい治療技術が注目を集めています。
その中でも近年、「TECAR療法」と呼ばれる高周波治療法が、凍結肩(五十肩)をはじめとする筋骨格系疾患の治療において注目されています。
今回は、Iranian Biomedical Journalに掲載された研究を基に、このTECAR療法がどのように肩の関節包に作用し、凍結肩の症状を改善させるのかをセラピスト向けにもわかりやすくご説明していきたいと思います。
TECAR療法とは何か
TECAR療法は「Transfer of Energy Capacitive and Resistive」の略で、日本語では「エネルギー伝達キャパシティブ・レジスティブ療法」と直訳できて通称ラジオ波と呼ばれます。
この治療法は、300 kHzから1.2 MHzの範囲の高周波エネルギー(ラジオ波)を使用し、体内の組織に働きかけることで自然治癒力を促進させる非侵襲的な治療方法です。
イメージとしては、電子レンジが食品を「内側から」温めるのと似ています。
ただし、ラジオ波療法はもっと精密で制御された方法で、特定の深さの組織を選択的に刺激することができるのです。
2つの治療モード
ラジオ波療法には、以下の2つの異なるモードがあります。
1. キャパシティブモード(CET) このモードは、皮膚、筋肉、リンパ系といった比較的浅い層の組織、つまり水分含量の高い柔らかい組織をターゲットとします。絶縁された電極を使用することで、これらの組織に選択的に熱を発生させ、循環を促進し、リラクゼーション効果をもたらします。
2. レジスティブモード(RET) 一方、このモードは腱、靭帯、軟骨、骨といったより深い層の、抵抗値の高い組織に作用します。絶縁されていない電極を使用し、深部組織の再生を刺激し、慢性的な関節痛や組織損傷を治療します。
詳しくはこちらの記事もどうぞ!

凍結肩(いわゆる五十肩)と関節包の問題

凍結肩、医学的には「癒着性肩関節包炎」と呼ばれるこの疾患は、一般人口の2〜5%に見られる比較的よくある疾患です。
特に50〜60代の方に多く発症します。
この疾患の本質は、肩関節を包む「関節包」と呼ばれる袋状の組織に問題が生じることにあります。
関節包は、例えるなら関節全体を包むラップのようなものです。通常はこのラップは柔軟性があり、肩を自由に動かすことができます。
しかし、凍結肩になると:
- 関節包内のコラーゲン線維が増加する
- 関節包が肥厚し、硬くなる
- 関節包の容積が減少する
- その結果、肩の痛みと可動域制限が生じる
特徴的なのは外旋制限のような症状です。
この硬くなった関節包を、いかに元の柔軟性に戻すかが治療の鍵となります。
ラジオ波療法の作用メカニズム

では、ラジオ波療法はどのように関節包に作用するのでしょうか。そのメカニズムは多面的で、複数の生理学的プロセスに働きかけます。
1. 深部組織の温熱効果
ラジオ波療法の最も重要な作用は、組織深部での内因性熱産生です。高周波エネルギーが組織内の電解質イオンを双方向に移動させることで、分子レベルの摩擦が起こり、組織内部から熱が発生します。
この深部温熱効果は、従来の表面的な温熱療法とは大きく異なります。例えば、ホットパックが「外から温める」のに対し、ラジオ波療法は「内側から温める」のです。この違いは非常に重要で、関節包のような深部組織に効果的に熱を届けることができます。
2. 細胞代謝の活性化
温熱効果により、細胞膜の透過性が向上し、細胞内外のイオン交換が活発になります。これは、まるで細胞の「呼吸」が深くなるようなものです。細胞代謝が活性化されることで、損傷した組織の修復プロセスが加速されます。
3. 血流とリンパ流の改善
ラジオ波療法は、血管を拡張させ、血流を増加させます。これにより、酸素や栄養素が損傷部位により効率的に届けられます。同時に、リンパ流も改善され、炎症性物質や老廃物の除去が促進されます。
水道管が詰まっている状態を想像してください。ラジオ波療法は、その詰まりを解消し、スムーズな流れを取り戻すようなイメージです。
4. 線維化組織の軟化
硬くなった関節包のコラーゲン線維に対して、温熱効果により粘弾性が向上します。これは、冷えて硬くなったバターが温まって柔らかくなるのに似ています。この作用により、関節包の伸展性が改善され、可動域が広がります。
5. 疼痛の軽減
ラジオ波療法は、複数のメカニズムを通じて痛みを軽減します。温熱効果による血流改善、筋肉の弛緩、そして痛覚受容器への直接的な作用により、即座に痛みが和らぐことが報告されています。
臨床研究からの知見

Iranian Biomedical Journalに掲載された研究では、ヤズドのシャヒド・サドゥギリハビリテーションクリニックにおいて、凍結肩患者30名を対象に無作為化臨床試験が実施されました。
研究デザイン
- 対象患者:受診前少なくとも1ヶ月間肩痛があり、対側肩と比較して受動的肩関節可動域制限があり、凍結肩の診断が確認された患者
- 治療群:NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)と併用して、週3回、6週間のラジオ波療法を実施
- 対照群:通常の理学療法のみ
評価指標
研究では、以下の評価指標を使用して治療効果が測定されました:
- SPADI(Shoulder Pain and Disability Index) 肩の痛みと障害の程度を評価する信頼性の高い指標です。日常生活動作における肩の機能を客観的に評価できます。後ほど詳しく解説します。
- 肩関節可動域 屈曲、外転、外旋といった各方向の可動域をデジタル傾斜計を用いて測定します。
SPADI(Shoulder Pain and Disability Index)とは

SPADIは、肩関節の痛みと機能障害を評価するために開発された患者報告式のアウトカム測定ツールです。1991年にRowan and Litchfieldによって開発されて以来、臨床研究および臨床現場で広く使用されている信頼性と妥当性の高い評価指標となっています。
SPADIの構成
SPADIは、大きく2つのサブスケールから構成されています:
1. 疼痛スケール(Pain Scale) 5項目から成り、以下のような肩の痛みの程度を評価します:
- 最も痛いとき
- 重いものを持ち上げるとき
- 棚の高いところに手を伸ばすとき
- 痛みのある側の肩に触れるとき
- 肩で物を押すとき
2. 機能障害スケール(Disability Scale) 8項目から成り、日常生活動作における困難さを評価します:
- 頭の後ろで髪を洗う動作
- 背中を洗う動作
- シャツを着る動作
- 上着を着る動作
- ズボンを履く動作
- 棚の高いところに物を置く動作
- 重いもの(4.5kg以上)を持ち上げる動作
- 痛みのある側の肩の上まで手を伸ばす動作
評価方法
各項目は、0から10の11段階(または0から100のビジュアルアナログスケール)で評価されます:
- 0 = 痛みなし/困難なし
- 10 = 最悪の痛み/動作不能
最終的なスコアは、疼痛スケールと機能障害スケールの平均値として算出され、0(障害なし)から100(最大の障害)の範囲で表されます。スコアが高いほど、肩の痛みと機能障害が重度であることを示します。
SPADIの臨床的意義
SPADIは、以下の点で臨床的に非常に有用です:
- 簡便性:患者自身が5〜10分程度で記入でき、特別な器具や測定技術を必要としません。
- 感度の高さ:治療による変化を鋭敏に捉えることができ、介入効果の評価に適しています。
- 患者中心の評価:患者が実際に感じている痛みと機能障害を直接反映するため、臨床医が見落としがちな日常生活上の困難を把握できます。
- 国際的な標準化:多くの言語に翻訳され、国際的な研究での使用が可能です。日本語版も信頼性と妥当性が検証されています。
最小重要変化量(MCID)
SPADIにおいて、臨床的に意味のある改善を示す最小重要変化量(Minimal Clinically Important Difference: MCID)は、一般的に8〜13ポイントとされています。つまり、治療前後でSPADIスコアが10ポイント以上改善すれば、患者が実際に改善を実感できるレベルの変化があったと判断できます。
この指標を用いることで、ラジオ波療法が単に統計的に有意な改善をもたらすだけでなく、患者にとって実際に意味のある改善をもたらしているかどうかを評価することができるのです。
研究結果の意義
ラジオ波療法を受けた群では、痛みの軽減と可動域の改善が観察されました。特に注目すべきは、多くの患者が治療後すぐに症状の改善を実感したという点です。これは、ラジオ波療法が関節包の軟化と血流改善を速やかに実現できることを示唆しています。
従来の治療法との比較

凍結肩の治療には、従来から様々な物理療法が用いられてきました。それぞれの特徴を見てみましょう。
超音波療法との比較
超音波療法も深部加温が可能ですが、エネルギーが骨の近くに集中しやすリスクがあります。また、治療できる範囲が比較的狭いという制限があります。
一方、ラジオ波療法は、より広い範囲を均一に加温でき、治療者が電極を動かしながら施術できるため、関節包全体に働きかけることが可能です。
短波ジアテルミーとの比較
短波ジアテルミー(SWD)は、かつては広く使用されていましたが、近年は安全性の懸念から使用が減少しています。金属インプラントを持つ患者や感覚障害のある患者では、皮膚熱傷のリスクがあり、また他の医療機器との電波干渉の可能性も指摘されています。
ラジオ波療法は、より局所的で制御された治療が可能であり、これらのリスクが低減されています。
経皮的電気神経刺激(TENS)との比較
TENSは主に表層の神経に作用して疼痛緩和をもたらしますが、深部組織の構造的変化を促すことは困難です。
ラジオ波療法は、疼痛緩和だけでなく、硬くなった関節包の軟化という構造的改善も期待できる点で優れています。
臨床応用のポイント
ラジオ波療法を凍結肩治療に応用する際の実践的なポイントをご紹介します。
治療プロトコル
研究で用いられた基本的なプロトコルは:
- 頻度:週3回
- 期間:6週間(計18セッション)
- 1回の治療時間:抵抗モードで10分、容量モードで10分
- 併用療法:NSAIDsおよび運動療法(壁登り運動、振り子運動、ストレッチなど)
治療の実際
- 初期評価:患者の可動域、痛みの程度、日常生活動作の制限を詳細に評価します。
- 電極の配置:肩関節の前方および下方に電極を配置し、関節包全体をカバーするように施術します。
- 強度調整:患者が心地よい温感を感じる程度に出力を調整します。過度な熱感は避けるべきです。
- 運動療法との組み合わせ:ラジオ波療法後の組織が温まった状態で、適切なストレッチや可動域訓練を行うことで、相乗効果が期待できます。
適応と禁忌
適応症例:
- 癒着性肩関節包炎(凍結肩)
- 回旋腱板損傷
- 腱炎
- 筋・靭帯損傷後
- 術後のリハビリテーション
禁忌:
- 妊娠中または妊娠の可能性がある場合
- 悪性腫瘍またはその疑いがある場合
- ペースメーカーなどの埋込型電子機器を使用している場合
- 治療部位の急性感染症
- 出血傾向のある場合
治療効果の時間経過

ラジオ波療法の効果は、段階的に現れることが多いです。
急性期(1〜3週目)
多くの患者が、最初の数回の治療で痛みの軽減を実感します。これは主に血流改善と筋弛緩効果によるものです。この段階では、夜間痛が和らぎ、睡眠の質が改善することが多く報告されています。
回復期(4〜6週目)
継続的な治療により、関節包の柔軟性が徐々に向上してきます。可動域が少しずつ広がり、日常生活動作が楽になってきます。例えば、背中に手を回す動作や、高い棚のものを取る動作が可能になってきます。
安定期(6週以降)
治療終了後も、組織の修復プロセスは継続します。適切な運動療法を継続することで、さらなる機能改善が期待できます。
今後の展望と課題
ラジオ波療法は、凍結肩治療において有望な選択肢となりつつありますが、さらなる研究が必要な領域も残されています。
研究の必要性
- より大規模な多施設共同研究による効果の検証
- 最適な治療パラメータ(周波数、出力、治療時間)の確立
- 長期的な予後の追跡調査
- 他の治療法との併用効果の検討
- 費用対効果の分析
技術の進化
ラジオ波療法の機器は年々進化しており、より精密な制御と、リアルタイムでの組織温度モニタリングが可能になってきています。今後、AIを活用した個別化された治療プロトコルの開発なども期待されます。
まとめ
ラジオ波療法は、高周波エネルギーを用いて関節包を含む深部組織に働きかけ、内因性の治癒プロセスを促進する革新的な治療法です。凍結肩の治療において、以下の利点を提供します:
- 非侵襲的で快適:手術を必要とせず、患者にとって快適な治療体験
- 即効性:多くの患者が早期に症状の改善を実感
- 多面的な作用:疼痛緩和、血流改善、組織軟化を同時に実現
- 安全性:適切に使用すれば、副作用が少ない
- 併用可能:他の保存的治療と組み合わせやすい
凍結肩で苦しむ患者さんにとって、ラジオ波療法は希望の光となる可能性があります。硬く固まってしまった関節包に対して、ラジオ波という見えないエネルギーが「内側から」働きかけ、柔軟性を取り戻させる。
この治療法は、まさに現代リハビリテーション医学の粋を集めた技術といえるでしょう。
ただし、ラジオ波療法は万能ではありません。適切な患者選択、正確な評価、そして熟練した施術技術があって初めて、その効果を最大限に引き出すことができます。また、運動療法や患者教育といった従来からの基本的なアプローチも決して軽視してはなりません。
今後、さらなる臨床研究の蓄積により、ラジオ波療法の位置づけがより明確になり、凍結肩をはじめとする筋骨格系疾患の治療において、標準的な選択肢の一つとなることが期待されます。
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